終章・最後の贈り物-14
毎日..飽きる程結ばれても二人は飽きる事はなかった....残されている時間があまりにも少ない....口には出さないが二人はわかっていた....だから飽きなかったのである....そんな二人にも帰らなければならない日が来てしまった....
「お世話になりました....」
菜摘は宿の主人に頭を下げた。
「菜摘ちゃん....また....」
そう言いかけた時
「お父さん!」
横の女将さんがご主人の横腹をつついた。
「あっ!」
ご主人はハッとした顔をしたが菜摘は笑顔で
「今度は、また二人で遊びに来ます....湯治なんかじゃなくて....」
そう答えた。
「待っているよ菜摘ちゃん!」
ご主人も女将さんも菜摘の言葉に笑顔を取り戻し、菜摘達を送り出してくれた。
温泉湯治から帰ってから程なく菜摘は入院してしまった....
北風が寒い冬を連れて来て、クリスマスソングが流れ、街がクリスマス色に染まる頃、菜摘は空に帰って行った....
遥香と輝は..菜摘が癌を再発した時からはそういう関係を持たなかった....普通の姉弟に戻っていたのである....
クリスマスイブの夜も遥香と輝はいつもと変わらない夜を過ごしていた....クリスマスだからといって特別な事もなく....
遥香は風呂に入ってからパソコンを立ち上げ何気なくメールのチェックをした....着信メールの中に思いもよらない人から届いている事に気づいた....
「えっ?どうして?」
遥香は慌ててそのメールを開いた....
[メリークリスマス!
このメールをハル姉が目にしているって事は私は家に戻って来ていないだね....
私は今....
癌と戦っているのかな?
それとも.....
もうハル姉の近くにはいれなくなっているのかな?
どう?
輝とうまくやってる?
ハル姉と輝の性格を考えると....
私がいなくなったのに....
二人だけで仲良く....
なんて無理だよね....
でも....
もう他に好きな人が出来たのなら何も言わないけど....
そうでないなら....
私の事は気にしないで!
ハル姉と私は元々は一つだったの....
二人で一つだったんだよ!
私はハル姉の傍からいなくなったんじゃないよ!
ハル姉の所に帰っただけ....
やっと一つに戻れたんだよ!
ハル姉の幸せは....
私の幸せ....
だから自分の気持ちに正直になって!
待っていたって輝は来てくれないよ!