第1話 天女の羽衣-1
私の名は、前田広美。
46歳のバツイチの女。
大学生の長男に、高校生の長女を抱えた母親でもあった。
そんな私がモーテルのベッドの上で、全裸にある物だけを見に付けた状態で、ヌードモデルの様なポーズを取っていた。
「ヒロミさん・・・素敵ですよ」
同じく全裸の男が、ベッドの上に上がってきた。
見た目は明らかに若く、私の長男とほとんど歳が変わらない若い男だった。
この時点で分かり得る事は、名前がタケルで歳が24と言うだけだった。
見た目は、端正な顔立ちの小顔で、まるで女性とも見間違われるほどの美青年だった。
それに対して私は、若い時はそれなりに異性を魅了するほどの顔立ちはしていたが、小じわやシミ、深いほうれい線が特徴的な、典型的なおばさんだった。
そんな私が、なぜか美青年のタケルとお互い全裸でベッドを供にしていた。
ドラマでも無い限り、あり得ないシチュエーションだった。
まるで夢物語のようだが、きっかけは出会い系サイトだった。
私は真剣に再婚を考えて登録していたが、彼のプロフが気になりアプローチを掛けてみた。
『ハンドルネーム・・・タケル。年齢・・・24。相手の希望・・・年齢問いません。ただし・・・僕の性癖を理解してくれる方』
年齢問いません・・・24もの若い男が、私の様な40も過ぎた女でも構わないと言う意味合いと認識した。
ただ気になるのは、性癖を理解してくれると言う事。
つまり、身体目的でもある分けだった。
それでも私は構わなかった。
崩れかけた中年女が、若い男と身体を重ねられるだけでも本望だった。
真剣に再婚を考えても、所詮は寂しさ紛れだった。
こうして彼とベッドを共にする事に至り、お互い全裸で向き合ってる分けだが、なぜか私はある物だけを見に付けさせられて一つの違和感を覚えていた。
そう・・・全裸にパンティーストッキングだけを着用させられていた。
色はベージュだが、脚のつま先から腰の部分まで透明の繊維が私の下半身を覆っていた。
私は一般的なOLの職に就いてる為に、普段から履きなれた物だったが、全裸にパンティーストッキングだけの姿には、とてつもない違和感だけを覚えた。
会う前は、このままの姿で行為に及ぼうとは思いもよらなかった。
ただメールの段階で、パンティーストッキングを履いて来るようには促されていた。
ちょうど冬に差し掛かる時期で、スカートスタイルの多い私は、厚手のタイツを履くつもりでいた。
それでも彼は、パンティーストッキングを履いて来るようにと嘆願したメールを送ってきた。
仕方なく彼の要望に答えようと、色まで指定してされたベージュのパンティーストッキングを履いて会う事にした。
この時までは、脚に対するフェチズムが彼の性癖だろうと単純に思っていた。
前戯で触られたり、軽く嗜む程度だろうと・・・・・・。
その為、スカートも少し短めの物を履いたが、なぜかホテルに入るや否や全裸になる事を要求された。
「えっ・・・いきなりなの?」
当然、私も彼に問いただした。
会う前にホテルに入る事を約束していたのだから、関係を持つ事には問題無かった。
ただ、前戯もなしに全裸になる行為に違和感があった。
彼はパンティーストッキングを履く事を促しておきながら、それを全て否定する形になるのだ。
しかも、この時点で興味を示すどころか、肝心の性癖も打ち明けられてなかった。
「ごめんなさい・・・やっぱり駄目ですか?」
彼は、私から視線を外す様に斜め下を向き、悲しげな表情を浮かべて顔を赤らめながら答えた。
その横顔は、長いまつ毛が印象的で美しく、さらに悲しげな表情が哀愁を漂わせて私の心を捉えていた。
この美青年と過ごす時間を考えれば、懸念する材料は一気に脳裏から消えていった。
彼の胸元で迎える至福が、すべてを忘れさせてくれると思ったからだ。
私は、彼を受け入れる事を心に決めて言葉を掛けた。
「そうよね・・・タケルさんと約束したからね。こんなおばさんで良ければ・・・・・・」
私は、言葉と一緒にカーディガンのボタンに手を掛けていた。
次から次へと、ソファーの背もたれには私の脱いだ物が掛けられていった。
それでも彼は視線を向けようとはせず、俯いたままだった。
彼に要求された、パンティーストッキングに手を掛けた時さえでも・・・・・・。
やがて私は全てを脱いで、再び彼に声を掛けた。
「もう・・・良いわよ」
静まり返った空間を、私の声が差すと彼は視線を向けた。
その視線の先にあるのは、四十もとうに過ぎた女の醜い身体。
彼にどう映るかは定かでは無かったが、その身体を曝け出した恥じらいが先走り、私はすぐに視線を落として胸を覆い隠していた。
そんな私だが、これでも自分の体型には気を掛けていた。
歳を重ねる度に食事の量にも気を配り、細身の身体をキープしていた。
それでも、押し寄せてくる老いには勝てずに、身体の線は崩れるようにたるんでいた。
特に若い頃には自慢だった大きな胸も、今では一番に覆い隠したくなるほどだった。
いずれ彼に曝す事を考えると、私の心は複雑な思いだった。