ボーイミーツガール-4
「キミは、何者だ!?」
ふっふっふっ……“不敵な笑い” を浮かべようとしてるんだろうな、たぶん。
「……あるときは謎の運転手、あるときはアラブの大富豪、また、あるときはニヒルな渡り鳥、そして、またあるときは可憐な女子高生、しかして、その実体は……!?」
ん? 何か違和感が。ソレは<ピー音>レディのヒット曲『<ピー音>テッド』の1番の歌詞なんじゃないだろうか? そして、ちょっと古すぎるネタなんじゃなかろうか? そんなボクのくだらない疑問を完全に無視して――ホント、何処から音を鳴らしているのか全然わからないけど――軽快なジングルが辺りに響いた。
♪ ぱっぱっぱやっぱ ぱやっぱ わぉ♡
「愛の戦士、キューティー<ピー音>さ!!」
え!? いいのか、ソレ? そこは無難に “ビューティー・エリー” とかにしといた方がいいんじゃないのか? 思わず<ピー音>入れちゃったゾ。
「ご苦労でした、パンサー蔵人。あちらでナツコたちと思う存分楽しみなさい」
無事に変身シーンを演じ切ったエリーちゃん(仮)は、蔵人先輩に向かってそう告げながら、右手に持った細身の剣で部屋の奥の方を指し示した。
パンサーだって? 初めて聞いたけど、先輩ってば、そんな、野球に使う革製品みたいな名称の音楽グループに所属していたメンバーっぽいハイカラな名前だったのか……って言うか何て言うか、ボクって、いったいトシ幾つなんだよ……。
蔵人先輩は、エリーちゃん(仮)に一礼すると、ボクのすぐ後ろを通って、部屋の奥の方の簡易ベッドまで歩いて行った。ソレに呼応するように、黒い大きな影が3つ、つい立ての裏から現れて、先輩の後に続いて動いていく。
「久しぶりね、速水せいじ」
エリーちゃん(仮)が、細身の剣をボクの方に向けて、例の、セクシーすぎるコスチュームに包まれたからだを艶かしくくねらせながら近づいてきた。スポットライトが、動きに合わせて移動する。後ろには、さっきの “変身” を手伝っていた黒衣が2人付き従っていた。
ボクの頭の中は、どうやら蔵人先輩にまんまとハメられてしまった後悔と、ちっとも今の状況が掴めない戸惑いと、再びエリーちゃん(仮)と話が出来る悦びの3つに引き裂かれた状態で、全く何も考えることが出来なくなっていた。
「アナタには、かなり以前から目をつけていたのよ。駅で出会ったのも、もちろん、偶然ではないわ。アナタのことは、ナツコを通して蔵人から詳しく教えてもらっていたんだから」
どういうことだ? 混乱したボクは、目を白黒させるのが精一杯だった。
「まだ、わからないの? アナタは、私が此処へ呼んだのよ。最初から運命は決まっていたってこと。そして、今日からアナタは生まれ変わるの!!」
エリーちゃん(仮)が首を小さく振って合図を送ると、後ろに控えていた黒衣たちが素早く駆け寄ってきてボクの腕を押さえつけ、口を湿った布で塞いだ。叫び声を上げようと息を吸い込んだ途端、意識が急速に遠のいていった。