海-2
海へ向かう電車の中。
「何でわいが悪モンにならなあかんの?」
「悪い悪い。ああでも言わなきゃうちの親が賛成してくれなくて。」
「わいがマーユを襲わんように、ケンジがついて来る、ってことなんやな?」
「そうだ。」
「ほんま、何もわかってへんな、お前んとこの両親。」
「俺がずっとお前のそばにいて、オオカミケニーから守ってやるからな、マユ。」
「嬉しい、ケン兄。」
「何言うてんねん。劣情の波に呑み込まれるんは、ケンジやないか。ほんまに・・・・。」
よく晴れていた。ビーチにはたくさんの水着姿の人がいた。海の家、スイカ売り、アイスクリームや焼きトウモロコシの屋台。まさに夏真っ盛りの海辺の風景だった。
「どうだ、ケニー、お前好みのオトコやオンナがいるか?」
「最近の水着はセクシーさが足りんな。例えば、」ケネスは一人の20代ぐらいの女性に視線を投げた。「あの姉さんなんか、スタイル抜群やねんけど、せっかくのビキニにパレオ巻いてはる。今しか人に見せられへんのに、もったいないと思えへんか?ケンジ。」
「確かにな。」
「それから、あの兄さん。」ケネスは別の場所で彼女とおぼしき女性といっしょに歩いている若い男に目を移した。「わい好みの筋肉質のカラダやねんけど、膝までの丈のだぶだぶのサーフパンツやろ?ほんまもったいないわ。」
「だけど、今のメンズの水着はみんなあんなもんだぜ。お前みたいなぎりぎりのローライズ競パン穿いているやつはなかなかいない。」
「カナダやアメリカのオトコはあんなもん穿けへんねん。夏の海っちゅうたら、もう露出してなんぼや。体型に関係なくオトコもオンナもちっちゃい水着着る者の方が圧倒的に多いで。」
「そうなんだ。でもな、見る方としては、体型にも気遣って欲しいものがあるな。」
「見る方としてはな。」ケネスは笑った。「そういうケンジもなかなかきわどい水着やんか。日本人離れしてるで。」
ケネスもケンジも極端に丈の短いピッタリしたビキニの水着を穿いている。
「わいはともかく、ケンジもそういうシュミがあんのんか?」
「動きやすいから好きなのと、荷物が少なくて済むのと、」
「何やの、その理由。」
「一番の理由は、マユが選んでくれたからだ。」
「へえ、マーユは好きなオトコにそういうパンツ穿いてもらいたいんやな。」
「そうらしいぞ。」
「ま、ケンジほどのガタイなら、そういうパンツの方が似合うな、確かに。わいもちょっとムラムラするわ。」
「ケニー、おまえここで俺を押し倒すんじゃないぞ。」
「隙を見せたらアブナイで。」
ケンジとケネスは笑い合った。
「楽しそうね。」二人の背後で声がした。ケンジとケネスはいっしょに振り向いた。
「マユっ!」ケンジが大声を上げた。
ヒュッ!ケネスが短く口笛を吹いた。「マーユ!!ええな、ええな、ええな、その水着、イけてるわ。」
マユミが水着に着替えて二人の所にやってきたのだった。「あらためて見ると、マーユ、巨乳やな。あ、すんまへん、下品な言葉使こてしもた。」
「いいの、ケニー。ケン兄もおっぱい大きい方が好きなんだよ。」
「オトコはみんなそんなもんや。それにそのちっちゃなビキニ!!最高やな、な、ケンジ、ん?どないしたん、ケンジ。」
「い、いや、ちょっと鼻血が・・・・・。」ケンジはティッシュを丸めて鼻に詰め込んでいる最中だった。
「はあ?!」ケネスは思い切り呆れた。「お、お前マーユの裸、いやっちゅうほど見てきたんやろ?なんで今さら興奮せなあかんの?」
「こ、こんな明るいところで、しかもこんなぎりぎりの水着姿見せられたんじゃ、誰だって興奮するに決まってるだろ!」顔を真っ赤にしたケンジはムキになって反論した。
「うれしい。まだケン兄を興奮させられるカラダなんだ、あたし。」