好き-3
ある日の行為の後、ユウトさんは子供を寝付かせる時にするように、私の背中をさすっていた。
なんだか、変に幸せな気持ちになってしまい、口をついて思わず馬鹿な事を云ってしまった。
「…ユウトさんが、好きなんです。」
ユウトさんの手が、止まった。そして、
「好きになっちゃ、駄目だから。」
と、ユウトさんは云った。
顔を上げて、ユウトさんを見ると、真っ直ぐ私を見ていた。
表情に困惑は込もっていなかった。
ただ、当たり前の事実を当たり前に云っているように見えた。
例えば、カラスは黒い、とか、夏は暑い、のような。
好きになっちゃ駄目だから。
私は、当たり前の事を思い出したかのように、
ただ
「そうか。」
とだけ云った。
締め切った部屋から、僅かに外の音が聞こえる。ヒグラシが、鳴いているんだな、と思った。