〈聖辱巡礼・其の四〉-2
「………ふ……う"……」
暫くの時をおいて、幹恵は意識を取り戻した。
ぼやけた視界が回復した瞳に映るのは、押し入れも箪笥も全ての衣服が引き出され、冷蔵庫までも荒らされた散乱した部屋だった。
身体は青臭い異臭を発し、ヌルヌルとした感覚が全身にへばり付く。
あの男達から受けた暴行は悪夢などではなく、逃れようのない現実だと受け止めるには充分過ぎる光景……幹恵は両手で顔を覆うと、悔しさのあまりに泣き出した。
(誰か…誰か助けて……)
心の中でも口汚く蔑み、直ぐに罵声を浴びせる幹恵の姿はここには無い……恵まれた容姿を武器にし、常に優位に立って攻撃する幹恵は、守勢に回ると余りにも弱かった……一言も言い返せず、されるがままに玩具にされていた自分が情けなく、か弱い少女のように泣きじゃくっていた……。
(……アイツ……そうだ、アイツに相談しよう……)
幹恵の頭の中に、一人の男が浮かんだ。
大学生の時にサイトで知り合った30代の男だ。
身長はそれほど高い訳ではなかったが、引き締まった身体は緊張感が漲り、存在感としてとても大きく見えていた。
性のテクニックもずば抜けており、今の幹恵の男を虜にする“技”も、この男から仕込まれたものだった。
ルックスも性技も抜群。
しかし、幹恵には恋愛感情など無かった。
その男に美味しい食事を奢ってもらい、その後のセックスで絶頂に導いてもらう事だけが目的だった。
幹恵はセックスフレンズとしか見ていなかったのだが、その男は違った。
何度もしつこく電話をよこし、メールも大量に送り付けては関係を迫った。
その頃から、その男の後ろには黒い影が見えるようになり、そんな奴らには係わり合いたくないと、幹恵は頑なに拒否するようになっていった。
元々、粗暴な要素のあった幹恵の性格を、完全に固めてしまったのは、その男の存在があったから。
幹恵は自分の美貌に傷付けるのも構わず、その男を口汚く罵り、場合によっては暴力さえ厭わなくなっていった。
そして、どうにか振り払う事が出来、そこから自由に操作しやすい年下の男に興味を持つようになり、今に到る。
(…………)
何時かまた掛かってきた時、間違っても出ないようにと残しておいた名前と電話番号……拒絶の存在でしかなかったその男に、幹恵の方から掛ける事態になろうとは夢にも思ってはいなかった……一瞬の躊躇いの後、幹恵の人差し指は通話のボタンを探って押した。