〈聖辱巡礼・其の四〉-16
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次の日の朝。
幹恵は“いつものように”学校に来ていた。
色気すらない濃紺のジャージを着て颯爽と歩く。
あの事件すら知らない女生徒達は、幹恵の傍まで駆け寄り挨拶を交わしていった。
『春日先生、おはようございます』
『昨日、先生いなかったから寂しかったよ?お葬式だったんだよね?』
脳天気な女生徒の台詞に、内心は面倒臭くなっていたが、そんなのは噫にも出さずに優しい言葉を返していく。
誰からも好かれる教師でいる為に……。
と、そんな相変わらずの幹恵の視界に、居るはずのない女生徒の姿が捉えられた。
幹恵は歩みを早め、その女生徒の傍まで駆けた。
下足置き場でうなだれているのは、誰あろう美加子であった。
「あら、美加子さん、お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す〜」
『!!!』
顎を突き出して見下ろすような態度の幹恵に、美加子は驚きの表情で固まったまま、おどおどとしながら消え入るような挨拶をした。
「梨央さんと乃ノ花さんは?いつも一緒な仲良しじゃなかったぁ?」
『〜ッ!!!』
言い返せないのを知りながら、幹恵はわざとらしく心配そうな表情を作り、美加子の顔を覗き込んだ。
梨央も乃ノ花も、あの屈強な男達に夜通し輪姦されていたはずだ。
恐らくは、外で見張っていた男達にも……。
あの悲鳴も、あの表情も、幹恵の脳裏には克明に記憶されている。
通学など出来ようはずがないのだ。
「私もさぁ、つい最近“辛い思い”したんだけど、それでも学校には来たわよ?あの二人にも伝えておいてよ」
『うぅ…う……』
肩を震わせ嗚咽を漏らす美加子に、幹恵は優しい口調で語りかけた。
「……変なマネすんじゃねえぞ。チクったりしたら……昨日みたいなモンじゃすまねえからな」
『!!!』
美加子はビクッと背筋を伸ばし、そのまま固まってしまった。
昨夜に和成達に言われた脅迫の数々が、一気に脳内を駆け巡ったのだ。