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新・ある季節の物語
【SM 官能小説】

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(冬編)-6

どこを目指すことなく歩き続け、ふと気がついたとき、いつのまにかたどりついたところは、
あの懐かしい教会だった。

並木通りにある煉瓦色の教会は、冬空に淡い光を投げかけるようにライトアップされた十字架
を掲げている。そこは、私が子供の頃に通った教会だったのだ。

死んだ父と母の顔がふと瞼の中に浮かんでくる。日曜日になるとミサに行くために、私は父母
に手を引かれてこの教会に通った。

クリスマスのために飾り付けられた赤や青のイルミネーションが、煌びやかに点滅を繰り返し
ている。


教会の入り口には、なぜか多くの人が集まっていた。その中で白いウエディングドレスを着た
花嫁が、みんなに祝福され、新郎と思われる男性に寄り添っている。

冬の結婚式か… 私はその光景を、道をはさんだ反対側の歩道からじっと見つめていた。
幼い頃、この教会でいつもクリスマスを迎えていた頃が懐かしく瞼の裏に浮かんでくる。


…カヨちゃんは、大きくなったら何になりたいの…と、あの頃、優しげな笑みを浮かべ、幼い
私に尋ねた母の声が、教会の中からふと聞こえてきたような気がした。

…神様のお嫁さんになりたいの…と、私は、あのとき無邪気にそう答えたことを微かに憶えて
いる。

そのとき母が私に優しく囁いてくれた言葉があった。その言葉を、私はずっと忘れていたよう
な気がする…。


私は教会の入り口に佇む若い花嫁の姿を見ながら、小さなため息をついた。そして、私は自分
がずいぶん遠くにきてしまったように感じた。



ケンジがやっているライブハウスの扉をあけた。

「あれ、カヨじゃないか…やっぱり来てくれたんだ…みんな、カヨが久しぶりに歌うぜ…
おーい、バンドのスタンバイいいか…」

常連の音楽仲間たちが、拍手で私を迎えてくれる。

小さなライブハウスのステージに立った私は、マイクを握った。ピアノのゆるやかな旋律が
流れ始める…。

歌い始めたのは、ホワイト・クリスマス…


ゆっくりとしたテンポで歌う私の脳裏に、死んだ母が、あのクリスマスの夜に私に囁いてく
れた言葉がかすめていく。あれは、何かの絵本の中の言葉だったろうか…


… ほんとうに大切なものは、けっして目に見えないものなのよ …


イマムラに恋をし、イマムラとつき合っていた頃、私は彼のすべてが見えすぎるほど見えて
いたし、同時に、自分自身があまりに見えすぎていた…と、ずっと私はそう思い続けていた。


でも… ほんとうに大切なものは、何も見えてはいなかったのだ…。



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