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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal2/2-1

「狙ってたのか……」

 永井の口から、無意識に心情が漏れた。好球必打と言えばそれまでだが、初球から、それも試合開始直後に狙って打つなど、余程の集中力がないと出来る代物ではない。

(それより、心配なのは省吾の方だな)

 投手でもその性格は様々だ。直也が、気持ちを前面に出して仲間と共に結果を求めるのに対し、省吾はどちらかといえば自分を追い込み、己の力のみを信じて抑え込もうとする傾向が強い。
 どちらが優れているという訳ではないが、失点した時に引きずり易いのは省吾のようなタイプだ。

「省吾ォ!切り替えていくんだぞッ」

 永井は両手でメガホンを作って省吾に声をかけた。その声を聞いたベンチの選手達は、ようやくホームランの呪縛から覚めた。
 指揮官が直接声を掛けるという、滅多にない行為を目の当たりにして、暗然となった自分達を恥じた。
 すぐにベンチ前の球避けフェンスに身を乗り出し、精一杯の応援を送り続ける。
 沖浜中の応援団が陣取る、一塁側スタンドからの歓声がグランドに響き渡る中、青葉中の選手達は平静を保とうと努めた。

「タイムお願いします」

 達也は主審から新しいボールを受け取り、省吾の下へと駆け寄った。

「力んじまったみたいだな。シュート回転して、内に入ってきたぞ」
「そうか……」

 省吾はグラブでボールを受け取るが、達也と目を合わせようとしない──悔しさを滲ませている。
 達也は考えた。今の精神状態のままでは、再び失点しかねない。先ずは落ち着かせるのが先決だと。

「ブルペンの時みたいに投げれば、そうそう打たれるものじゃなから」
「解ってる」

 諭す言葉に頷く表情は硬い。もう少し時間が欲しいところだが、あまり長くなると審判への心証を悪くして“微妙な判定”の際、不利に働く可能性もなきにしもあらずだ。

「じゃあ、頼むぞ」

 達也はマウンドを後にし、足早にホームへと向かった。

 二番バッターが右打席に入った。達也の頭には、小技は利くが長打はないというデータが入っている。

(先ずは、ひとつアウトを取るのが先決だな)

 達也は、外へ逃げるカーブを外角に要求する。失点したピッチャーは動揺からか、次の初球が棒球になり易い傾向がある。守備を落ち着かせて仕切り直すには、相手が予期せぬ球から入るのがセオリーだ。
 省吾はサインに頷いて初球を投じた。
 ボールがバッターの目線より高く浮き上がり、大きな弧を描いて鋭く落ちてくる。真っ直ぐ狙いのバッターは、タイミングが合わずにボールを見送った。

(もう一球いけるな)

 追い込まれるまでは真っ直ぐを狙ってくる。そう感じた達也は次もカーブを要求した。が、ニ球目は、初球ほどタイミングが外れなかった。

 ──コンッ!

 強く振り出したバットがボールを捉える。しかし、バッターの予想した軌道とズレがあり、ボールの上面を叩いてしまった。
 打球はショートに転がった。秋川は打球に歩調を合わせて前に出る。簡単なゴロだ。

「あッ!」

 捕球の直前に変な跳ね方をしたボールは、グラブの土手に当たって転がった。サード乾が慌ててカバーに入ったが、バッターは手を叩いて一塁を駆け抜けていた。


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