fainal2/2-6
「お願いします!」
足立が右打席に入る。普段よりピッチャー寄りの足位置は、変化球の曲がり出しを叩こうとする彼なりの工夫だ。
当然、キャッチャーも、その意図を解んで配球を組み立てる。初球は外角の真っ直ぐ。低めギリギリの絶妙なコースに決まった。
(スピードは並みだが、キレと制球は抜群だ)
二球目も同じコース。足立は踏み込んで打ちにいくが、球威に圧されて打球が右に逸れる。
右バッターだから、左ほど球の出所が見辛いわけではないのに、それでも振り遅れてしまう。
足立は追い込まれ、乾と同様にバットを短く握り直した。
だが、キャッチャーは足立の考えを見抜き、三球目に外角へのカーブを投げさせる。完全に虚を突かれた足立は、手も足も出ずにボールを見送るしかなかった。
「ストライク、スリーッ!」
相手の術中に嵌まり、一番、ニ番とも翻弄されてしまった。しかも投げた球種はカットボール、カーブの二種類のみ。中学生でもトップクラスとなれば、四、五種類の球種を投げ分けるのを思うと、まだ、手の内を隠しているに違いない。
(何とかしないと、相手を調子づかせてしまうな)
左打席に入った省吾は、足立同様、ピッチャー寄りにスタンスをとった。
(前二人の打席で、真っ直ぐのタイミングは大体掴んだ。追い込まれるまでは真っ直ぐ狙いだ)
省吾は、ほんのわずかグリップを余らせる。キャッチャーは構えから狙い球を解み、ヒットにし難い外角低めの真っ直ぐを選択する。
ピッチャーが初球を投げた。省吾はあっさりと見送ると、打席を外した。
(間近で見ると、速く感じるな……)
バッターは、相手投手の腕の振りでタイミングを合わせる。左バッターと右ピッチャーの場合、右腕は対角となって見難く、出所を確認するのが遅れて予測よりボールに差し込まれる傾向が強い。
そこで省吾は、予測と合致させる為に初球を見送った。
(次は多分……)
ピッチャーが投球動作に入った。省吾から見てプレートの左端を踏んでいる。さらに球の出所を分かり難くする為の工夫だ。
(真っ直ぐか……)
左足を大きく踏み出し、右腕を振り抜く。バッターの目線で外から内にボールが食い込んでくる。
しかし、省吾はこの球を待っていた。
強い金属音と共に、鋭い打球が右に飛んだ。ファーストが横っ飛びで追いかけるが、打球はそれよりも速く、横を駆け抜けた。
「ファール!ファール!」
無情にも、一塁々審が両手を上げた。わずかなズレだった。ヒットを確信し、全速で一塁へと疾っていた省吾は、判定に力が抜けてしまった。
「くっそォ、もうちょっとだったのに……」
小走りで打席に戻りながら、頭の中は次の球を考える。今の打球を見れば十中八、九で真っ直ぐは来ない。おそらく変化球責めだと結論づける。
だが、予想は外れて三球目も内角の真っ直ぐ。しかも打った球よりさらに内への厳しい球だった。
省吾は見逃しながら、次の球への布石だと思った。外角への勝負球に踏み込ませない為の。