fainal2/2-57
「佳代、大丈夫か!?」
グランドにいた達也に一ノ瀬、川畑や和田、中里が駆け寄って来て、心配そうな顔で周りを取り囲んだ。
「試合、どうなったの?」
まだ、混濁気味の佳代に達也は笑顔で答えた。
「お前のホームインでサヨナラ勝ちだ!」
「本当に!」
佳代は嬉しさのあまり飛び起きようとしたが、
「あいたたッ!」
痛みがそれを許さない。すると、見かねた達也がクルリと背を向けた。
「みんな、俺がおぶって行くから手を貸してくれ」
「い、いいよ!恥ずかしいから」
佳代は手を振って抵抗するが、多勢に無勢では如何ともしがたく、無理矢理、達也の背中におぶされてしまった。
「佳代!」
達也が佳代をおぶって歩き出した時、青葉中ベンチから、殆どの選手が飛び出して来た。
全員が佳代の周りを取り囲むと、喜びを爆発させた。
「青葉ッ!青葉ッ!青葉ッ!」
天に向かって人差し指を突き上げ、あらん限りの声で自分達を讃える。観客は劇的な幕切れに、惜しみない拍手を送った。
選手達の喜ぶ姿を、永井と葛城はベンチで見つめていた。
「監督、お疲れ様でした」
葛城の目には、光るものがあった。
「こんな試合……初めてです」
「わたしもです。素晴らしい子供達だ……」
そう答える永井の目も、潤んでいた。
「凄い試合だったな」
「そうだな……」
歓喜に躍る仲間の姿を、加賀と秋川はベンチから見ていた。
「俺たちが県の代表だぜ。信じられるか?」
「そんなことより、足は大丈夫なのか?大会は一週間後だぞ」
「大丈夫だよ。すぐに復帰して、今日の借りを返してやる」
「そうか。じゃあ、俺たちもあそこに行くか」
「ああ」
秋川は加賀に肩を貸してベンチを出ると、仲間の下へと歩きだした。
「全国なんて夢だと思っていたが、本当に行くんだな!」
「ああ……」
三塁側スタンドは、未だ興奮醒めやらぬ状況だった。
信也の傍らでは、尚美と有理が肩を抱き合って喜びの涙を流している。
「来年、あいつらも高校生か」
和巳の思わせぶりな言葉に、信也は反応した。
「負けられんな……」
「ああ。絶対にな」
グランドを見つめる二人の目は、後輩への眼差しではない──すでにライバルと捉えていた。