投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 605 やっぱすっきゃねん! 607 やっぱすっきゃねん!の最後へ

fainal2/2-56

「だあッ!」

 川畑は、瞬きするほどの間にバットをボールの軌道に合わせる。当たる瞬間、右手首を返さず押し込むように振った。

 ──キンッ!

 打球は三遊間へ飛んだ。予め、センター寄りに守っていたショートは必死に食らいつこうとするが、打球は無情にも脇をすり抜けていった。

「回れえッ!」

 和田は必死になって右手を回す。佳代の右足のスパイクは三塁ベースを足場にして、スピードをさらに増すと、ホームへと向かった。
 揺れる視界の先に、キャッチャーの姿が見える。ホーム手前で立ちはだかるつもりだ。
 三塁を駆け抜けた時、打球を目で追った佳代は、際どいタイミングだと直感していた。

(多分、回り込む暇はない)

 そう思った瞬間、佳代の中で何かが弾けた。阿修羅のごとく鋭い眼光を放ち、地面を蹴る足にさらなる力を加えた。
 キャッチャーは、しゃがみ込んでブロックの体勢に入った。
 次のバッターである一ノ瀬が“滑り込め”と、ジェスチャーを送る。キャッチャーが捕球体勢を取った時、

 ──みんな、ごめん!

 佳代は低い体勢を保ったまま、左肩からキャッチャーに激突した。

「なにッ!」

 一哉は思わず立ち上がった。

「ぐうッ!」

 凄まじい衝撃は骨を軋ませ、肉を激しく揺らした。佳代にとって耐えられるものではなかった。
 佳代は仰向けのまま、気が遠くなっていった。
 その刹那、彼女は見た。初めてボールに触れた、ドルフィンズに体験入部した時の出来事を。

 初めて、野球と出逢った日のことを──

「はっ!」

 佳代は意識を取り戻した。開いた目に飛び込んで来たのは、青い空だった。

「痛ッ!いたたた……」

 激突の代償は高くついた。全身が痛みで身動き出来ない。

「痛た、くそ……」

 何とか上体だけ起きると、ニメートルほど離れた場所にキャッチャーがうずくまっていた。
 その傍には、ボールが転がっていた。

「……どうなったの?」

 ふと、足下を見て驚いた。両足がホームベースの上に乗っていたのだ。

「ホームイン!ゲームセットッ」

 主審が試合終了を告げた。
 次の瞬間、球場全体が歓声に包まれ興奮の坩堝と化した。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 605 やっぱすっきゃねん! 607 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前