fainal2/2-41
「ねえ……」
佳代が話掛けても、直也は目を合わせようとしない。険しい顔だ。
「黙ってろよ」
「でも、このままじゃ……」
暗澹たる想いは、佳代の感情を乱れさせる。すると、直也の横顔がかすかに笑った。
「九回までは俺が引き受ける。後は、お前と淳が止めてくれ」
そう言ってグラブを持つとベンチを出た。次の守りに備えて。
遠ざかっていく背中に佳代は呟くように言った。
「わかった……任せとけ」
その瞳は涙で潤んでいた。
結局、達也もセンターフライに終わり、青葉中は絶好のチャンスを活かしきれなかった。
八回表、沖浜中の攻撃は一番から。ピンチの後にはチャンス有り──沖浜中はベンチ前で円陣を組んだ。
(奴等、是が非でも追加点を奪いにくる気だな……)
なんとしても流れは渡さない!──守る青葉中も、気合いを入れ直す。
「プレイ!」
灼けつくような日射しの中で始まった決勝戦も、早、ニ時間足らずが経過して日も傾き掛けてきた。
試合はニイニングを残すだけ。この先は、どちらの方が試合に懸ける執念があるか、どれだけ“熱く冷静”でいられるかが雌雄を決する。
(内角だ。内角を抉ってこい!)
先頭バッターを出したらチームに勢いを与えてしまう。絶対に抑えねばならない。
達也は思いを顕すように、バッターに被るほど身体を内に寄せた。
直也が初球を投げた。ボールが要求よりも、さらに内へと入って来る。それを見たバッターは、避けるどころか身体をベース側に寄せてきた。
「……!」
バッターの呻き声と共に、ボールが肉にめり込む音がした。身体を寄せる際、肘を突き出したのを達也は見逃さなかった。
「デッドボール!テイクワン」
「ち、ちょっと待って下さい!」
達也は「わざと当たった」とアピールするが受け入れられない。どうやら、バッターの“演技力”に、審判も騙されてしまったようだ。
「くそッ!」
直也はマウンドを蹴った。バッターにもだが、肝心なところでしくじる自分に腹が立ったのだ。
「今のが認められないなんて、酷い審判ですね」
一部始終を見ていた葛城が珍しく語気を荒げる。
「強豪校の中には“上手く当たる練習”をやらせているチームもあるらしい……嘆かわしい事ですよ」
永井は賛同する発言をしながらも、別の意見だった。
(それだけ、奴等も必死なんだ……)
続くニ番に送りバントを決められて一死ニ塁。迎えるのは三番、四番と、最も好機に強いバッターとなった。