fainal2/2-20
効果はすぐに顕れた。森尾をカットボールでサードゴロ。一番の乾はカーブで三振。そして、ニ番足立もカットボールでセカンドフライと、三者凡退に斬った。
当然、青葉中としては、チャンスが訪れるまで耐えるしかない。直也も持ち球すべてを駆使した投球で、沖浜中の攻撃を三人で終わらせた。
ようやく、試合が落ち着きだした四回裏。青葉中の打順は替わった直也から四番達也、五番淳のクリーンナップ。言わずとも期待が膨らむ。
攻撃に先立ち、全員がベンチ前で円陣を組んだ。
「前の回から、カットボールの傾向が強くなった。そこを突いていけッ」
具体的な攻略方法を受けて、円陣は解けた。
選手の中に、期待と緊張が入り混じる。そんな中、
「直也!出ろよッ、有理ちゃんが見てるよッ」
信じられないかけ声が直也の耳に飛び込んできた。
打席に向かう足を止めて振り返ると、球避けフェンスに鈴なりに並ぶ選手全員が、驚きの顔で佳代を見ていた。
「あいつ……」
怒りと恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。主審から「早く入りなさい」と、注意が飛んだ。一部始終を目にして、仲間逹は堪えきれずに笑いを零す。
「とうとう言ったのか!?」
淳が佳代に訊いた。直也が有理を好きなことは、同学年の仲間なら知ってる事実であった。
「みたいだね。わたしもよく知らないけど」
「彼奴、一年の頃からだったもんなァ」
「うん!良かったよ」
「直也が、どうかしたのか?」
それまで、自ら蚊帳の外にいた省吾が会話に入ってきた。
佳代がその旨を教えると、それまでの沈鬱さが嘘のように哄笑を響かせる。
大会からずっと見せていなかった、久しぶりの笑顔だった。
「おねがいします!」
顔から火の出るような思いを必死で頭の片隅に追いやり、直也は右打席に立った。
先頭バッターの上に初打席で自ずと緊張が高まる。
初球は外角の真っ直ぐ。直也は振りだす途中でバットを止めた。
キャッチャーは、右手首を回して一塁々審に“振ったのではないか”とアピールするが、塁審は両手を横に広げ、振っていないと報せた。
直也は、打席の中で思いを廻らせる。もし、カットボールを決め球とするなら、追い込むまでは外角中心に責めてくるはずだ。
だったら、外角に甘く入ったボールも狙えば、ヒットの確率はさらに増えるし、外角への球を減らさざるを得なくなり、攻略し易くなるはずだ。
(なんとしても出塁して、きっかけを作らないと……)
ニ球目は、同じ外角だが初球よりコースが甘い。迷わず打ちにいくと、ボールは滑るように外へ変化して、直也のバットをすり抜けた。
(スライダーか。結構、変化が大きいな……)
三球目は外角低めの真っ直ぐ。直也は果敢にバットを出していった。
──キィン!
大きな飛球がライトに飛んだが、途中から右に逸れてファールとなった。
(これで一ボール、ニストライク。いよいよか)
直也は打席を外し、昨日の練習で打ったボールの軌道と身体の使い方を、再度頭に叩き込む。