fainal2/2-19
「ええ。序盤に右狙いやバントを繰り返し、省吾の守備機会を増やすことで体力を奪い取り、球威の落ちたところで一気に攻め立てる……。
いかにも“勝利至上主義”的で卑劣極まりない。中学生に教えるべき野球じゃありません」
吐き捨てるように語る一哉の声は強い憤りに満ちている。
傍らの榊は、そんな一哉の姿に憐憫さを抱いていた。
「さっさと終らせるぞ！」
「当たり前のことを言うなッ」
ぶつかり合う二人の目に敵意はない。繊細な省吾と違い、気持ちで投げる直也の気持ちを奮わせる一種の手順。人心掌握に長けた達也らしい思いつきだ。
「プレイ！」
試合が再開された。バッターは五番。左対右では外に逃げる球がなくて打ち取り難い。先ずは、外の低めで様子をみることにした。
（初球から、厳しい要求しやがって）
直也はセットポジションに構えた。後ろのニ塁ランナーが、じりじりとリードを広げていく。更なる追加点を奪い、一気呵成に試合を決定づける腹積もりだ。
「ふうーッ」
直也は頬を膨らませて息を吐くと、左足を蹴って投球動作に入った。
バッターから背中が見えるほど上体を捻ることで生じる力。左足のスパイクが、プレートの先、六歩半の位置の窪みを踏み込むと、生じた力を爆発的に解放させた。
弓なりに反った背中を、瞬時に倒し込む。リリースの瞬間、直也の人差し指と中指は大きく反り返った。
──パァン！
唸りをあげたボールが、バッターから一番距離の遠い、外角低めに構えたミットを鳴らした。
「ストライクッ！」
達也はニ球目も同じコースへの真っ直ぐを要求する。バッターは打ちにいったが、ボールの勢いに圧されて前に飛ばせない。
バッターは心の中で慌てた。春先の練習試合で対戦した経験が無意味なほど、直也の球は威力を増していたのだ。
そんなバッター心理を達也は解み、三球目は一転、カーブを勝負球に選ぶ。
真っ直ぐと変わらね腕の振りに反し、緩いボールが大きな弧を描いて落ちてくる。タイミングを外されたバッターは、敢えなく空振りした。
「スイングッ、バッターアウト！」
青葉中は、どうにかピンチを脱した。が、選手達に笑顔はない。心なしか、表情に翳りがみえる。
結果を見れば仕方のない事かもしれない。それほど、三点は重く厳しい点差だ。
戻る選手達の目にベンチ最前列の省吾が映った。すべての元凶が自分であるかの如く、打ちひしがれて首を垂れている。
そんな彼に、言葉を掛ける者はいない。代わりに、傍を通り過ぎる者全部が、彼の肩を軽く握っていく。
必ず取り返す！──という無言の伝言をのせて。
三回裏。九番の森尾が、先頭バッターとして右打席に向かっていく。
前回は真っ直ぐを狙われてピンチをまねいた──そう考えた沖浜中バッテリーは、変化球中心に切り替える決断をした。
序盤で三点差という理想的な展開。ここで守りを固めれば、優勝を引き寄せることになる。