fainal2/2-18
「くそ、やられたか……」
対照的に静まりかえる青葉中ベンチ。畏れていた事態が現実になってしまった。
「ここで止めるぞ!締めてかかれよッ」
気持ちを切らすまいと、達也はグランドに向けて声を張る。
しかし、
「ボール!フォアッ」
すでに省吾の心は切れていた。次のバッターに四球を与えてしまい、傷口を広げてしまった。
「タイムお願いします!」
青葉中ベンチから伝令が向かい、ピッチャー交替を告げた。
「ほらッ」
急ピッチで投げ込みを繰り返す直也と下加茂の下に、佳代がスポーツドリンクを持って近づいて来た。
「すまない……」
ボトルを受け取り一気に飲み干した。首筋の汗が光ってる。
「しっかりね!」
「ああ……」
今まさに向かおうとする直也に、「頑張って!」と声援が掛かった。
声のした方向には、慈しみ溢れる笑顔で両手を振る有理の姿があった。
直也は、すぐに視線を外すと帽子を目深に被り直し、マウンドへと駆けだした。
「すまん……」
呟くような声。そこには、いつもの尊大な省吾はいなかった。
「任せろ!お前の分、俺が抑えてやるッ」
沈鬱する省吾に対し、直也はわざと突き離す。彼にも覚えがある。こういう場合、慰めの言葉は却って相手を傷つける、放って置くのが一番なのだ。
「頼む……」
省吾は、直也にボールを託してマウンドを降りていった。
ベンチに戻り、奥に向かおうとするのを葛城が呼び止める。
「稲森くん。前に座って、最後まで見なさい」
省吾は言葉の意味が解らず、戸惑いを顕にしたまま最前席に座った。
(なんで、俺が前なんかで……)
屈辱的なマウンドなんて見たくもない!──省吾は衝き上げてくる己への憤怒を、歯を食いしばって抑えていた。
「やっぱり、潰されたか」
一哉はぽつりと呟いた。予想した展開とはいえ辛いのだろう。傍らの榊も口を開かず、憮然とした顔をグランドに向けていた。
「試合中、あれだけダッシュを繰り返せば、ピッチングに影響しないはずがない」
「それを、沖浜中は故意にやったというのか?」
榊の口が問いかける。一哉は大きく頷いた。