fainal2/2-10
「しまっていくぞォーッ!」
達也の声が、グランドに散った仲間の闘争心を煽りたてる。
ニ回の表、沖浜中の攻撃。達也に代わって投球練習を受けていた下加茂は、忠実に指示を実行した。
おかげで省吾の息は大分整っている。がしかし、指先の痺れは未だ解消されてなかった。
五番バッターは、左打席に入ると足場を固めだした。チーム随一の飛距離を誇ってはいるが、穴が多いというのが達也の評だ。
(外のカーブ)
省吾が投球動作に入った。リリースの瞬間、手首を強く捻りつつ抜くように投じる。
ボールはバッターの目線より高く浮き上がった。強い正回転が掛かったボールは、大きな弧を描いて落下し、膝元に構える達也のミットに収まった。
主審がストライクを告げた。バッターは軌道の変化を見極めようと、じっくり凝視した。
(ニ球目はこれで)
次は外角への真っ直ぐ。バッターは打ちにいったが敢えなく空振り。初球とのスピード差で完全に振り遅れている。
(小細工なしだ)
遊び球はいらないと見た達也が要求したのは、外に逃げるスライダー。省吾は頷き、セットポジションに入った。
グラブの中で握りを確かめ、投球動作に入る。ステップした右足が、プレートから六歩前の窪みを掴んだ。
グラブをした右手を、斜め前方に突き出す。右肩の開きを抑えて、ボールのキレを上げる為だ。
「フンッ!」
左腕がムチのようにしなる。ボールが指先を離れる瞬間、縫い目にかかる中指に力を込めて斬るように投じた。
ボールは狙いより、やや内に入った。バッターはバットを強く振りにいった。
ボールは滑るような変化で外へと逃げる。鈍い金属音と共に、力ないゴロが右方向に転がった。
打球の方向を見た省吾は、マウンドを駆け降りて一塁へと走った。打球はファースト一ノ瀬へのゴロだが、自ら一塁を踏むには遠い。こういう場合、ピッチャーがベースカバーに入る。
「ヘイッ!」
一ノ瀬に声をかけて自分の位置を報せる。ボールを投げるタイミングをはかる為だ。
「省吾ッ!」
一ノ瀬が、捕ったボールを下投げから誰もいない一塁に放ると、駆け込んできた省吾が、飛んでくるボールを掴み取とって一塁を踏んだ。
次の瞬間、打ったバッターが省吾の横を疾り抜けていった。
「アウト!」
マウンドへと戻る省吾に、先頭バッターを仕留めた喜びはなかった。
(指の痺れで、投げる感覚が微妙にズレてる……)
制球に不安を持つピッチャーは、概ね防御的な思考に陥り易い。そうなると、相手につけ入る隙を与えてしまう。
省吾は不安を掻き消すように左手をニ度、三度と振った。
「指……どうかしたのでしょうか?」
省吾の動作を見た途端、ベンチの葛城が表情を曇らせた。
ピッチャーとは精密機械のようなもので、わずかな狂いが生じても制球に影響を及ぼしてしまう。