拾い物-12
「どうやらおあずけだ」
カリーは構えたまま黒づくめの様子を伺う。
「……名前は?」
「レディに名前を聞く前に自分から名乗ってよね」
カリーの答えに黒づくめは驚いたように動きを止めた後、肩を揺らして笑った。
「失礼した」
そして、黒づくめは自分の顎に手をやると被っていた覆面を剥ぎ取る。
覆面の下には意外と端正な顔があった。
歳は20代後半、長めの黒い髪に黒い目……覆面を取っても色目的には何も変わらない。
「俺はスランバート。スランで良い」
カリーは油断無く構えたたままだが、可愛く笑って答えた。
「カリーよ」
「カリー……良い名前だ」
ふっと笑ったスランにカリーは一瞬毒気を抜かれる。
それがまずかった……その一瞬でスランはカリーとの距離を一気に詰めたのだ。
「はっ?!」
気がついたら左腕を握られて腰の後ろで固定され、がっちりとスランの右腕の中に収まっていた。
いったい何が起きたのか分からない……分かるのは……。
(殺やれるっ?!)
カリーの体からザアッと血の気が引く。
「やっ」
身動ぎした瞬間、左腕がギリッと捻り上げられた。
「あうっ!」
ギシリと骨が軋み、カリーの手からトンファーが滑り落ちる。
カランと乾いた音が暗闇に響いた。
「はっぁうぅ」
苦悶の表情を浮かべるカリーの頬をスランが反対の手で撫でる。
「今夜はこれで我慢しておく」
「?」
こいつは何を言ってるのか?と思った瞬間、カリーの唇にスランの唇が重なる。
「んんっ?!」
驚くカリーの唇をスランの舌がゆっくりとなぞり、口の中に割って入った。
「んっふ…ふ…んぅ」
目を見開いたカリーは顔を背けようとするが、腕はギリギリに締め上げられてるし頬は固定されてるし、唯一動く右手はスランの脇に挟まれて逃げようがない。
これだけ無理矢理に人の唇を奪っておきながら、スランの口づけはとても丁寧で優しい……カリーは背中に甘い電流が走るのを感じた。
でも……。
ガリッ
「っつ?!」
蕩けそうになる意識を引き上げたカリーは、ありったけの力を込めてスランの口に噛みつく。
カリーを抱いていたスランの腕から力が抜け、カリーは腰砕けになったまま屋根に座り込んだ。