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100年後
死刑は秘密裏に執行される事ぐらいは知っていた。いつ死刑になったか、それは親族には知らされるのだろうが、きっともう、私の両親はこの世にいない。
私は百二十歳のプラマイ期間がきても、まだ自分の力で歩き、軽い労働ならこなせる。残念な事に、国にはめられたようだと感じたのは、百歳を超えたあたりだ。
世論に押され、死刑は宣告したが、この国は国の実験のために、私を生かした。
「じいさんさぁ」
隣に座った若い囚人が、昼食のテーブルの隣に腰掛けた。
「トルチルで死刑になった人でしょ。つーかまだ死んでないから死刑になってないか」
そう言うと喉の奥から不愉快な音を立てて笑った。
「俺さ、刑期10年でな、もうそろそろ出れそうなんだよ、模範囚で。でもトルチルで50歳で死ぬんだ。その前に何かでかい事やりたいんだよな」
私は彼の横顔を見ながら呆けたような顔をしていた。
「あのな、じいさんが死刑になってないんだって、マスコミに発表してやろうと思う。死刑なんて嘘で、国は国の実験のためにじいさんを生かしてるって、そう行ってやる」
私は目の前に置かれたソバの椀を持ち上げて一口すすると「そうか」と零した。
「言えばいい。私は国に騙された。そう言ってくれ。世の中腐ってるってな」
若者は元々良いのであろう血色をさらに良くして「おう」と意気込んでいる。
正直言って、どうでも良かった。もういつ死んでもおかしくない私にとって、世の中がどう動こうが関係なかった。
しかし私は一つ危惧している事があった。果たして私は、このまま死刑を執行されずに寿命で死ぬのだろうか、という事だ。いつ死んだってそれは構わない。しかし国の汚いやり口にはできれば加担したくない。それを若者に話そうとしたその時、看守が私の名前を呼んだ。
「執行だ。このまま私についてきてください」
俺はこちらをじっと見ている若者に、ひらりと手を振った。それで理解してくれればいいのだが。
私はトルチルのプラマイ期間に入った途端に死刑が執行される事になった。国は何も間違った事をしていない。私は死刑を執行されるのだから。そしてトルムチルドレンとして百二十歳まで生きたというデータも取れた。国はウマい事やったな、と思い、私は気付くと口元に歪な笑みを浮かべていた。ガラスに映ったシワだらけの顔が、歪んでいた。
「誰かに何か言い残す事があればこの場で」
「いや、身内もおりませんし。言う事とすれば、トルムの実験を即刻中止して欲しいってぐらいですけど、そんなのは公表されないんでしょ」
そう看守の顔を見遣ると、彼は暫く顔を固くしたあと、頷いたのかとぎりぎり分かる程度に顔を動かした。
私はガラス張りの白い部屋に通されると、顔より一回り広い輪に首を通した。これで全て終わる。
私が五人を殺した事は、何ら意味を持たなかった。今更だが、死んだ五人に詫びたい気持ちになった。私の力でトルムの制度が何か変わってくれたらいい、若かった私はそう思っていた。しかし実情は何も変わらなかったのだ。
ガタン、と音がするとともに視界が暗くなった。