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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 5-7



 親衛隊が本殿の奥出口をすり抜けた。
 出てすぐに奥の院へ上る石階段がある。彼らが見上げると、王子が階段の上に立っていた。

 彼は全員が本殿を出たタイミングをみはからい、さっと腕を振り上げた。
 本殿裏の外壁沿いに待機していた神宮衛士隊が、合図と同時に動いた。張り巡らされて中へと続く鎖を、多方向から引っ張る。
 長く分散された鎖の先は一点に集約している。
 ゴ、と石のずれる音がした。神宮衛士隊が急いで建物から離れる。

 外からは、何も起こっていないように最初は見えた。
 だが本殿の内部では、既に始まっていた。

 ごとり、ごとり、と中で激しい落下音が連続し、やがて、メキ、と外壁に亀裂が走った。
 亀裂が見る間に全体に走り、自らの重みに耐えきれず、建物の土台が、ずるりとずれる。
 壁が屋根の重みで、外側に膨張するように傾ぐ。
 石造りの壁は、そのような変形に長くは耐えられなかった。

 ぎしぎしと不穏な音が続いたかと思うと、ある瞬間、破裂するかのように激しく、外壁が砕け散った。

 屋根がそのまま落下し、下にあるものを押し潰しては衝撃で粉々に崩れていく。

 衛士隊が鎖で引いて破壊したのは、それ一本倒すことで建物全体が崩壊するように設えられた柱だった。

 ロンダーンの城塞は、伝統的に多くがこのような仕掛けを持っている。籠城戦の備えのされた神殿も例外ではなかった。

 宮の司や神官たちが、悲愴な面持ちで自分たちの城の崩れ落ちるのを見守っていた。

 建物内に入りきらなかった、あるいは入り口側から逃げ出すことのできた者たちは幸運だった。
 石の砕けた粉塵を立ち上らせながら崩壊が終わったとき、敵軍は半数近くにも減っていた。

 王子はちっと行儀悪く舌打ちをした。
 あわよくば敵の全員を下敷きに、と思っていたのだ。だが、人生そう甘くない。

 とはいえ、相手はこれから瓦礫を乗り越えるなり撤去して通路を作るなりの作業を余儀なくされる。どちらにしてもこちらには時間ができた。
 もともと人数の差からして、全滅させられるとは誰も思っていなかった。
 彼らの作戦は、あくまで援軍が来るまでの時間を稼ぐのが目的だ。
 王子は、アハトはどうなったかと視線をめぐらせた。


 ガキン、と金属の打ち合う音が響いた。

 最後の一体となった魔族が高く跳躍すると同時に、アハトも跳んだのだ。
 勢いよく空中で激突したが、強く叩きつけた刃は表皮を覆う鱗に弾かれて通らなかった。
 そのまま押し切りたいところだったが、重量の極端な差のために、後ろに弾き飛ばされたのはアハトの方だった。

 彼ははからずも、奥の院への階段の中腹まで吹き飛ばされ、何とか空中で体勢を整えて着地した。
 親衛隊や衛士隊の進行方向である。彼はすぐに親衛隊を跳び越えて階段を降った。

 魔族が追ってきていた。瓦礫をものともせずに巨体で蹴散らしてこちらに来る。
 アハトは魔族に対して身構えた親衛隊に声をかけた。

「早く奥の院へ行け」

「しかし、」

「お前たちは魔族の相手をしなくていい。上で二人を守れ」

 親衛隊と神宮衛士隊が、石階段を駆け上るのを確認して、彼は魔族と対峙した。


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