約束-3
「ごめんね、急に呼び出したりして。」真雪はテーブルの向かいに座った春菜に言った。
「ううん。大丈夫。私も丁度あなたとお茶飲みたいなって思ってたところだったの。」
「そう。良かった。」
街中にあるその喫茶店にはカウンターの他に、通りに面した広い窓に沿って四人がけのテーブルが3つ並べて置いてあった。窓にはサンタクロースやトナカイなどのデコレーションが施されていた。
「もうすぐクリスマスだね。」
「そうだね。」
「ケン兄と約束してるの?」
「うん。海の見えるレストランに連れて行ってくれるって言ってた。」
「わあ、ロマンチック。さすがケン兄。それで、そのままお泊まり?」
「う、うん。もうホテルも予約した、って言ってた。」春菜は頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。
「素敵。」
「真雪は?」
「龍はまだ高一だからねー。」
「夜はどうやって過ごすの?」
「まだ未定。」
「どっか素敵なところに行きなよ。せっかくのクリスマス。」
「そうだね。でも彼、未成年だから、夜、街をうろついてたりしたら補導されちゃうかも。」
「あなたがついてるから大丈夫でしょ。補導員に質問されたら、いとこです、って言えばいいじゃない。嘘じゃないから堂々とね。」
「そうね。それもいいかも。」真雪はカップを持ち上げ、口に運んだ。
店のドアが開く音がした。いらっしゃいませ、という若い男性店員の声がした。
「あ、来た来た。」真雪は手に持っていたカフェオレのカップをテーブルに置いて、入り口のドアを入ったところに置かれたクリスマスツリーの横に立っているポニーテールの女性に手を振った。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった。」夏輝は小走りで二人のテーブルにやって来た。
「そんなに待ってないよ。座って。」真雪が促した。夏輝は春菜の隣に腰掛けた。
「今月で実習も終わるんでしょ?」春菜が夏輝に言った。
「もう、長かった・・。21か月だよ、21か月。高校出てから。」
「来月から念願の本職警察官だよね。」
「どうにかこうにか。」夏輝は笑った。
「所属は決まったの?」
「一応希望は出したけどね。たぶん地域課だと思う。」
「地域課って?」
「要するに『お巡りさん』だよ。交番勤務ってとこ。」
「そう。」
「で、どうしたの?急にあたしたちを呼び出したりして。単純にお茶タイムだったらあんたん家でいいわけだし。何かあった?」
「さすが警察官だね。鋭い洞察力。」真雪は少しばつが悪そうに笑った後、椅子に座り直して語り始めた。「あのね、」