チェリー-4
身体の熱がゆっくりと冷めていった。真雪は龍に抱かれながら、息を整え、静かに目を開けた。
「龍、」
「何?」
「とっても良かった。」
「俺も、大満足。」
「今日はあなたに、三回もイかされちゃった・・・・。」真雪は恥ずかしそうに言った。
「え?そうなの?」
「うん。あなたが舐めてくれた時と、指を入れてくれた時、そして最後。」
「いいなー真雪は。オトコって一回きりだからなー。」
「ごめんね。」真雪は龍の前髪を指で撫でた。「その唯一の一回、ほんとに満足した?」
「したした。さっき言っただろ、大満足って。」龍は笑った。
「ゴムつけてても大満足?」
「もちろん。逆に妊娠の心配しながらじゃ、絶対に満足できないよ。真雪の身体のこと考えれば、俺がちょっと手をかければいいことだし。」
また真雪は目を閉じ、しばらく龍の胸に顔を埋めていた。そして彼女はそのまま言った。「あたし、大人になったって実感が、あんまりない。」
「そりゃあね。誕生日が来たからって、いきなり大人になるわけじゃないよ。」
「あたしの身体をそうやって気遣ってくれる龍の方が、あたしより大人、って感じがする。」
「俺はまだ子どもです。マユ姉ちゃん。」
真雪は目を開けて言った。「セックス、上手になったね。」
「真雪が相手だからだよ。俺、君に教えられたようなもんだ。」
「他の女のコ、抱いてあげたことないの?」
「何だよ、『抱いてあげた』って。」
「龍がその気になれば、いくらでもチャンス、あるんじゃない?」
「あのねー、真雪は俺にそうやって浮気して欲しい?」
「して欲しくない。」
「だったら変なこと、言わないでよ。」龍がちょっとむっとしたように言った。
「ごめん。大人げないこと、言っちゃったね。大人のくせに。」
「俺は、真雪以外に知りませんよ。マジで。」
真雪は龍の頬を右手の指で撫でながら言った。「ねえねえ、龍、」
「何?」
「男の人ってさ、結局最後に出しちゃえば満足するんじゃないの?」
「って女のコはみんな言ってるみたいだけど、誤解だね。」
「そうなの?」
「気障な話、してもいい?」
「え?気障?」
「セックスはフルコース。抱いて身体を重ね合うオードブル、おっぱいはサラダ、身体中を舐めるのはスープ。」
「へえ、うまいこと言う。じゃあキスは?」
「飲み物。経験が浅い頃は水だったけど、そのうちワインやカクテルのお酒になっていく。食事の間、何度も味わってどんどん気持ち良くなっていくんだ。」
「すごい!いい喩え。」
「そしてメインディッシュは挿入して果てること。」
「セックスの余韻がコーヒーってとこ?」
「そう、そしてこの会話がスイーツだね。」
「龍って、詩人。あたし見直した。」
「実はこれ、最近読んだ本の受け売りのアレンジなんだ。」
「それでも素敵。」
「単純に、例えば一人エッチでイくのは、そこいらの店でラーメン食べるようなもんだね。」
「ラーメン?」
「そうさ。食べたいと思っていきなりラーメンを食べる。そしてとりあえずお腹いっぱいになる。」
「いいじゃない、お腹いっぱいになるんだったら。」
「お腹いっぱいになるけど、満足しない。って言うか、充実感がない。」
「なるほどね。」
「俺は真雪にキスするのが大好きだし、抱きしめるのも大好き。」
「あたしもだよ、龍。」
「そして特に真雪のおっぱいのサラダが大好き。」
「いつも時間掛けるよね、龍って。」
「もう、一晩中真雪のおっぱいいじってても飽きないかもしんない。」
「えー、やだ、そんなの。あたしが満足しないよ。」
「わかってるって。そしてメインディッシュを食べる準備がクンニ。」
「そしてあたしのフェラ、だよね。」
「さっきの君のは、やばかった。」
「そう?」
「あと五秒、長かったら、俺、メインディッシュに進む前に食事を終わらされてた。」龍は困ったように笑った。
「しばらくすれば、また続きを食べたくなるでしょ?龍は。」
「だからさ、何度も言うようだけど、俺、君の口に発射するのは苦手なんだってば。」
「気持ちいいと思うけどな。」
「わかって言ってるの?」龍は呆れて言った。「いいの。とにかく俺は、いやなの。そうやって十分楽しんで、最後に真雪の中でイくのが、最高にいい気持ちになるセックスなんだから。だからイくのが一回だけでも大満足。」
「男のコも気を遣ってるんだね。」
「気は遣ってないよ。俺もそれまでの料理、たっぷり楽しんでるからね。真雪は?」
「あたしも今龍が言った通り。抱きしめられたり、舐められたりするの、大好きだよ。一番好きなのは龍のキス。」
「好きだよねー、真雪。どうかすると離そうとしないもんね。」
「だから今日は特に燃えた。あなたとキスしながらイったの初めてだった。」
「そうだっけ?」
「そうだよ。もう最高に気持ち良かった。どっかに飛んで行ってしまう感じがした。」
「だから最後は俺にしがみついたんだね。」
「あたし、しがみついた?」
「もう、息が止まるかと思ったよ。」龍は笑った。
「龍、」
「ん?」
「大好き。」
「俺も。」
真雪はまた龍の胸に顔を埋めた。