ハーモニカの君-4
ー貴方に送る銀の恋糸……
ー君に捧げる金の愛糸……
ー重なり絡み合いひとつになる……繋いだその手を離さないで、貴方と……君と……巡る時の中で。
サビに入る頃には城全体から静かな歌声が響き、それは城の外にまで広がっていく。
イズミが居るテラスから、その様子が良く見えた。
城から聞こえる合唱に、街の灯りが次々と灯っていくのだ。
城を中心に波紋のように広がる灯りに、イズミは歌うのを忘れて魅入る。
合唱は城下町をも巻き込み、まるで国全体が歌っているようだ。
イズミの視界には空の星が地面に降り注いだかのような幻想的な景色が映っている……ドグザールが見せたかったのはこれなのだ。
1人でデュエット曲を歌うイズミに、我こそがと騎士団員が歌い始め、それを聞いた人々も負けるものかと続く……そして、城から聞こえる合唱に街の人々も歌い出す。
ノリの良いお調子者のゼビアの国だから出来る事。
「凄いわ」
イズミは両手を祈るように組んで感動する。
かなりの広範囲で合唱しているので音が微妙にズレているのだが、それが絶妙なハーモニーになっているから不思議だ。
ー貴方と……君と……巡る時の中で……。
そして、曲が終わると今度は城を中心に灯りが消えていく。
歌が終わったからといって拍手や歓声があがる事はなく、何事も無かったかのように静寂が戻った。
後には清らかなハーモニカの音色だけが静かな夜空に響き渡る。
「どうでぃ?綺麗だったろ?」
あの後、歌詞が無い曲を2、3曲演奏したドグザールが戻ってきて、屋根から逆さまにひょいっと顔をだした。
イズミは両手を胸の前で組んだままドグザールに視線を移す。
「凄いわ、凄く綺麗だった!」
イズミは興奮気味にぴょんぴょん跳び跳ねて喜んだ。
「だろぉ?冬は空気が澄んでて音が遠くまで届くからな……ちょっと退け」
イズミを退かせたドグザールは逆手に屋根の縁を掴んで、くるりと回って降りてくる。
着地したドグザールにイズミは抱きついて冷たい頬に唇を押し付けた。
「ははっどうしたツンデレ妃?やけに素直だなぁ?」
「素直な時もあるって言ったじゃない。今がそうよ……ありがとう、キョウ」
冷たく冷えたドグザールを暖めるように、イズミはその身体を抱いて彼の胸に甘える。
「なぁんか照れっなぁ……」
年がいもなく顔を赤らめたドグザールは、それでも嬉しそうにマントで彼女を包んだ。
マントの中でドグザールを見上げたイズミが微笑む。
見つめあった2人は自然と口づけを交わし、暖かい部屋へと戻っていった。