ハーモニカの君-2
「なぁんで歌わねっかなぁ?」
城の一番高い塔の屋根に登って演奏していたハーモニカの君、もといドグザールは冷たくなった手を擦りながら窓から部屋に入って来る。
「デュエットを私1人で歌えと言うの?」
デュエット曲は相手が居ないとかなり寂しい……女性パートだけ歌うと歌詞がとんで間抜けだし、かと言って男性パートまで自分で歌うのはもっと間抜けだ。
相手であるドグザールはハーモニカの君なので歌ってくれないし……だったら歌わない方がマシ。
イズミはぷうっと頬を膨らませていじける。
「お前ぇにゼビアの良いとこ感じてもらいてぇんだよ」
ドグザールはニヤニヤしながら外套を脱いでハンガーにかけた。
「?意味がわからないわ」
デュエットを1人で歌う事でどうしてゼビアの素晴らしさが分かるのか、とイズミは首を傾げる。
「いいから、次は歌えよ?」
ドグザールはそう言って冷たい身体でイズミに抱きついた。
「いぃいぃっ?!」
ドグザールの身体は思った以上に冷たく、彼の腕の中でイズミはピキーンと固まる。
「あったけぇ〜」
「暖炉っ暖炉の前に移動っ!」
イズミはドグザールに抱きつかれたままズルズルと暖炉の前に移動した。
「んもぅ、冬は休めばいいのに」
高い塔の屋根なんて寒いに決まっている。
イズミはドグザールを暖炉の前に座らせて、その背中に自分が羽織っていたショールを掛けた。
「ハーモニカの君はアイドルだからな」
これを楽しみに仕事をしている騎士団員は多いのだ。
暖炉の前に胡座をかいて座ったドグザールは、膝をポンポン叩いてイズミに座れと合図する。
「歳を考えろと言ってるのよ」
ドグザールの胡座の中にちょこんと収まったイズミは、お尻をもぞもぞさせて座り心地を良くした。
「お前ぇな、過度に年寄り扱いすんなよ」
イズミを後ろから抱いたドグザールは、彼女の身体の前で未だに冷たい手を火に当てながら擦り合わせている。
「過度じゃないわよ。40過ぎるとガクンとくるんだから。医学的にもそれは証明され……」
「うるせぇうるせぇ!そんなに心配ならまだまだ若い証拠見せてやらぁっ!!」
看護資格を持つイズミが知識を披露するのを、ドグザールは彼女を押し倒す事で遮った。
「きゃっ!!冷たっ!?」
服の中に潜り込んできた冷たい手にイズミは悲鳴をあげる。
「ほれほれ」
「やあだぁっ」
こしょこしょとくすぐられ、イズミはケタケタ笑い……まあ、その後はお決まりのコースでドグザールの若さは証明されたのだった。