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愛しい体温
【純愛 恋愛小説】

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-1

「りこちゃんにこれ、あげる」
 ピンク色の包装紙に包まれ赤いリボンがかけてある。お店で買った物である事は一目瞭然だった。
「風間さん、これは?」
「莉子ちゃんのお誕生日、明日ですよね?」
 出店の行列を避けた道を歩く私達の横を、一台の自転車が通り過ぎた。
「えぇ、わざわざ買ってくださったんですか?」
 お礼も言わずにいきなり包装紙を破り始めた莉子に「莉子!」と言うと、それだけで分かったようで「ありがとう、あきとくん、あきとくんのパパ」とお礼を言う。
 改めて私が風間さんに「ありがとうございます」と礼を言うと「気にしないでください」と笑った。
「あ、ママのぶんもあるよ、ほら!」
 同じ柄のタオルハンカチが大きさ違いで入っていた。
「あの、これは......」
「ママ誕生五年って事で。僕からのプレゼントです」
 人にプレゼントをもらう事から、六年も遠ざかっていた事に気付く。最後にもらったプレゼントがタオルハンカチだった。「病院の売店にはこんなもんしか置いてないから」と言っていた。ぼんやりと思い出し、気付くと涙ぐんでいる。あせって顔を上に向けて誤摩化そうとするが、「何か思い出させちゃいましたか」と気遣わしげな声を掛けられ、さらに込み上げてくる物がある。
「夫に、最後にもらった誕生日プレゼントが、タオルハンカチだったんですよ」
 目尻に残った涙を人差し指でぬぐい、笑いかけた。風間さんは少し翳りのある顔で笑い「そうでしたか」と何度か頷いた。
「ありがとうございます。あの、奥様にもお礼をお伝えください」
 風間さんは少し目を見開いて、それからいたずら気な顔に変わった。
「嫁には内緒で買ってますから、いいんですよ、言わなくて」
 苦笑いにしかならなかったけれど、笑う事は出来た。笑う事しか出来なかった。風間さんが何を考えているのか、私は彼の思考に追いつけないでいた。
 風間さんには家庭がある。奥様がいる。それは分かっている。だから口にはださない。それでも風間さんの中に夫の影を見てしまう私は、風間さんに惹かれているのだ。それゆえに、手を握られたり、プレゼントをもらったり、笑いかけられる事にすら、何か意味を見いだそうとしてしまう。
「莉子、人参買い忘れたから、お店寄ってから帰ろう」
 苦し紛れにそこにあったスーパーに縋った。


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