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愛しい体温
【純愛 恋愛小説】

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-1

「守山さんの職場は、夏休み、あるんですか?」
 スーツのジャケットを手に持った風間さんは、いつもより少し痩せて見える。
「一応三日間はとれます。風間さんは?」
「僕も同じような感じです。どこか行かれるんですか?」
 莉子と秋人君は今日も飽きずに手をつないだまま、私達の前を歩いている。莉子のゆれる後ろ髪を見ながら「うーん」と考えた。
「実家に帰るぐらいですかね。車がないのであんまり遠出もしたくないですし」
 そうですよね、と返事が返ってくる。きっと風間さん一家は、どこかレジャー施設にでも出かけるのだろう。我が家に気兼ねして、本当の事は言わないかも知れない。
 夫は長男だった。夫の家では莉子が初孫で、それはそれは可愛がってくれた。今でも夫の実家には莉子を連れて顔を出す事がある。この夏休みは、私の実家にも夫の実家にも行かなければ。
 話の切れ端を聞いていたのか、秋人君がくるりと振り向いて「ディズニーランドにつれてってくれるんでしょ?」と訊いた。風間さんは困ったような顔で笑って「だ、そうです」と私に言う。
 私も笑って「そうなの? 楽しみだね」と秋人君に笑いかける。隣に口を尖らせている莉子がいた。
「莉子ちゃんも、夏休みはおじいちゃんおばあちゃんの所に行くんでしょ?」
 気を遣ってくれた風間さんの方に向いた莉子ははち切れそうな笑顔で頷く。
「あのね、おじいちゃんとおばあちゃんがふたりいるから、ふたついくんだよ!」
 風間さんは笑顔のまま顔を少し傾け、私の方を向いた。莉子の祖父母がふたりずついるという事に疑問を感じたのだろう。しかし生物的に考えると、それが普通ではないか。莉子には父と母がいて、またそれぞれに父と母がいる。当たり前の事だ。
 私は風間さんの笑顔を受け流し、「三日間、みっちりです」と腕まくりをしてみせた。


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