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雑踏の片隅で
【その他 官能小説】

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卒業-9

「あたしの、この掌にパンチをしてみて」
「え、嫌ですよ。女の人を殴るなんて、僕には……」
「つべこべ言わずに、いいから打ってきなさい」

 タケシがあたしの弟子になった翌日。
 彼は渋々という感じで、あたしの掌にパチンと拳を当てた。
 体操をやっていたからか、それなりの威力はあったが、素人丸出しのテレフォンパンチで全く実用的でない。
 タケシはそもそも、人を傷つける行為自体を敬遠してるのだろう。
 まともな人間は皆そうなのだと思う。それが、タケシのパンチに表れていた。

「今度は、掌じゃなくていいわ。どこでもいいから、打ってきなさい」
「そんな事、出来る訳ないじゃないですか」
「あたしの心配はしなくていいわ」
「それでも……」
「フフ、じゃああたしに攻撃を当てられたら、昨日の続き考えてもいいわ」
「えっ?」
「もう、顔色変えちゃって……あんたもムッツリスケベな男ねぇ。ほら、早くしないと、気が変わるかもしれないわよ」
「……じゃあ、いきます」

 少し躊躇いを見せながらも、タケシは拳をあたしに繰り出してきた。
 あたしはその拳を半歩下がって避けて、その腕をとってタケシの大きな体を背負い、そのまま砂場の上に投げつけてやった。
 タケシは体操をやっているせいか、受け身は上手く取れている。

「ほら、ダンスじゃなかったでしょう? あたしがやってるのは、こういう事よ」
「……今度は、本気でいきますよ」
「いらっしゃい」

 あたしは人差し指を手前に動かして、タケシを挑発してやる。
 今度は、彼なりに全力で向かってきているようだ。
 あたしに向けられたパンチを、今度は腕でいなしながら肘を回転させてタケシの拳の方向を変えた。
 同時に、足を使って体をタケシの側方に移動させ腰を回しながら自分の背中をタケシに思い切りぶつけてやる。
 靠(コウ)という背中で体当たりをする打撃技で、女のあたしでも、まともに当たればかなりの威力を持つはずだ。
 実際、タケシはあたしに吹き飛ばされ、またもや砂場に顔を突っ込んでいた。

「あら、もう終わりかしら? なかなか当たらないわね、タケシ君のパンチは」


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