卒業-6
朝、いつもの通り、公園で体を動かしている。空は、快晴だ。
しかし、タケシが居なかった。
ここ数日、天気も悪くないのに、この公園に来ていない。
別に来て欲しい訳でもないが、急に来なくなると、妙に気になって鍛錬に身が入らない。
タケシの、優しい瞳の色が完全に消えた時の、あの洞穴のような目を思い出した。
ただ風邪を引いたくらいならいいが、おかしな胸騒ぎがする。
連絡先など知らないので、あたしはどうすることも出来ない。
こんな気分になるなら、仲良くするんじゃなかったな……。
拳を振りながら、あたしは心の中のモヤモヤを消し去ることが、その日ついに出来なかった。
だがそのモヤモヤをかき消すように、タケシは翌日、申し訳なさそうに現れた。
そしてタケシの姿を見た瞬間に、そのモヤモヤは黒々としたものに切り替わりそうになった。
タケシの目尻と、口元に絆創膏が貼られているのが見えたからだ。
少しお腹を抑えて、大きな体を猫背にして、ベンチに向かって歩んで来る。
最初に会った時に見た、感情を押し殺したような、虚ろな瞳をしている。
あたしは鍛錬を中断して、タケシの座るベンチに近づいてそのままゆっくりと座る。
座ったまま、お互い何も喋らなかった。タケシは、彫像になったかのようにピクリとも動かない。
あたしは、おもむろにタケシの脇に近づき、彼のジャージを下着ごと捲り上げた。
「あ……ちょっ、何を、するんですか、ショウコさん」
ほっそりとした体の割に、体操をしていたという体は筋肉質に見えた。
その筋肉質の体は、青痣とミミズ腫れにまみれていて、見るも無残な有様だ。
あたしは一瞬頭の中がカッとしたが、なんとかそれは我慢して押さえ込んだ。
これは、結局は本人が解決していかなければならない事なのだ。
彼が新聞配達をしている理由。それが、なんとなく分かった気がした。
あたしは、そっと捲り上げたタケシのジャージを下ろしてやる。
「タケシ君、あなた、心の中が凍りついてしまっているのね」
「えっ?」
あたしは、タケシの手をおもむろに掴んで、自分のTシャツの中に入れた。
タケシは突然のことで、何が起こったのか分からないという顔をしている。
Tシャツの中に入れた手を、ブラの上から、あたしの胸に当てがってやる。