『BLUE』-15
「君は・・・タケル君は彼の事をどう思ってるの?」
涼生が問うと、タケルはしばらく唸っていたがやがて口を開いた。
「どう思ってるって・・・見ての通りスゴいんじゃない?
俺は小っちゃい頃から遊んでもらってたから良く知ってるし、昔から深兄は俺の目標なんだ。」
「へえ、仲良いんだな。」
プライドの高そうなタケルがこれほど彼を誉めてるのだから、それだけ深間の人間性は確かなのだろう。
涼生は素直に感心した。
「・・・っていうか俺はオマケなんだ。
深兄は姉貴の幼なじみさ。」
姉貴?と涼生は聞き返す。その単語が頭の中で反芻した。
「実は姉貴もこのクラブの出身で、今は深兄と同じバイトをしてるんだ。」
ふーん、と納得したような振りをしてタケルを見た。意識してみると誰かに似てなくもない。
いや、はっきりとそう思うまでにほとんど時間は掛からなかった。
「・・・ところでさ、タケル君の名字って何だっけ?」
「俺?水原だよ、水原タケル。小学三年生。
別に君付けはいいよ兄ちゃん。」
よろしくな、と言った少年は悪戯っぽく笑ってみせた。
彼女が現われたのはそれから間もない頃だった。
プールサイドに出た彼女は、涼生を見つけるとゆっくり近づいてきた。
「ゴメンね。ちょっと遅くなっちゃった。」
慣れない場所に長時間いたせいか、見知った水原が来ただけでホッとした。
涼生は隣で座っていたタケルを見やる。
彼女もそれに気が付いて軽く挨拶をした。
「タケル?
今日は練習なかったんじゃないの?」
「自主練だよ。
今朝、深兄が来るって姉貴が言っただろ。
だから俺も教えてもらおうと思って。」
ふーん、と水原は納得すると涼生に振り返って弟を紹介しようとした。
「・・・えーと、弟のタケルよ。ここに一緒に通ってるの。」
「知ってるよ。さっき聞いたから。」
「え・・・?」
困惑すると水原は視線をタケルに移した。
タケルは頷くと面倒臭そうに説明した。
「この兄ちゃんに、ジムのことを詳しく教えてあげてたんだ。」
涼生に絡んで深間に叱られるという重要な事項が抜けていたが、涼生も面倒だったから敢えて追求するような事はしなかった。
彼のこの辺のひねくれた性格が今更ながらに二人を姉弟に思わせた。
「そっ、か。余計なこと言ってない?」
「・・・別に何も。」
水原は念を押して聞いたが、タケルが首を横に振るとそれだけで納得したように笑顔で応えた。