『BLUE』-13
「タケル!!
他のお客さんに絡むなっていつも言ってるだろ。」
「違うよ。俺はこの兄ちゃんに出直してもらおうと思っただけだ。」
「関係ない。早くその人に謝りなさい。」
青年が間に入り、ぴしゃりと言うとそれだけで強気だった少年は萎縮した。
涼生が事態を飲み込めずに青年を見ていると彼はニコッと笑って頭を下げた。
「すいません。この子が失礼なこと言って・・・大丈夫でしたか?」
「あ、はい。」
青年に合わせて自分も頭を下げる。
先程の少年は彼の横で居心地悪そうな顔を彼に向けていた。
涼生はホッとして再び青年に視線を預けた。
よく見ると彼は体付きこそしっかりしていたが、年齢は自分とあまり変わらない印象だと思った。
青年は涼生の視線にも笑顔を崩さずに話を続けた。
「皆瀬君ですよね?奏子から話は聞いてます。
池田高校の水泳部なんだって?
名門だからなぁ、あそこは・・・」
「いや、別にたいしたことないんです。本当に。」
(本当に・・・)
「僕も一応やってるんですよ。清新工業って知ってます?」
知ってるも何もそこは、中学時代の涼生の第一志望校だった高校だ。
県内の男子部なら随一の名門だろう。
予想どおり彼は高校生だった。
「深間光です。よろしく。」
そういって差し出した手に涼生も応じる。
しかしそこで彼に対する疑問が湧いた。
一般の客が出入りできないこの時間帯になぜ深間光は咎められないのか。
ここの会員だとすれば説明はつくが彼の被っているキャップは従業員のモノと同じだった。
聞いてみようかと思ったが、涼生はまだ今の状況をよく分かっていない。
とりあえず水原に話を聞くのが先だった。
「あの、深間さん。
水原さんはどこですか?俺、彼女から何も聞いてなくて・・・。」
「ああ、奏子は館長の所に挨拶してから来るって。」
そうですか、と言って涼生は俯く。
深間はそこで気になるなら呼んでこようか?と言ってくれたが静かに待つことにした。
「じゃあ僕はちょっと様子を見てくるから。タケル、皆瀬君に謝っておけよ。」
「分かったよ・・・」
タケルと呼ばれた少年はため息を一つ吐くと気のない返事で応じた。