秘密の青い鳥-6
「ど…う……でしょうね……」
僕は何となく答えをはぐらかしてみる。
後悔なんかしていない、するワケがない。
愛した女性は母親だったが、それが些細な事に思える程に彼女が好きだから。
でも、それを言ったら塔子さんは困るかもしれない。
「貴女こそ……後悔してるんじゃ?」
実の息子と寝たうえに、その関係をずっと続けている事についてどう思っているのか……これを機会に僕も聞いてみる。
「するわけないだろう?私の『青い鳥』はお前だ」
塔子さんは上半身を少し上げて興奮気味に僕を見上げる。
「言っておくが『母親』としての『青い鳥』じゃないぞ。『女』としての『青い鳥』だ」
塔子さんはまくし立てる様に言った後、自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……母親失格だな」
母親ならば息子の幸せを……普通の幸せを願うはずなのに。
塔子さんは僕から視線を外して、カップの中に視線を戻す。
僕は何て狡いんだろう……塔子さんが困るかもしれない、とか理由をつけて逃げていたのだ……自分が傷つきたく無かっただけなのに。
「……僕の『青い鳥』は……塔子さんですよ」
僕はコーヒーを脇に置いて塔子さんを背中から抱きしめた。
「言っておきますけど『男』としてのですから」
さっきの塔子さんの台詞を真似て言うと、彼女はいつもの笑顔で振り向いてくれた。
「ねえ、塔子さん……結婚しましょうか?」
耳元で囁くプロポーズに、塔子さんは艶やかに微笑む。
「それは良いな」
僕達は唇を重ねて再び実験台の上で絡み合った。
例え、行く先が地獄だとしても……2人ならば、そこは青い鳥が飛び交う楽園に変わるだろう。
ー秘密の青い鳥・完ー