秘密の青い鳥-4
「そんな……お……母さん?」
「ハハハっ凄いなっ晴樹!晴樹!」
彼女は呆然としている僕を抱きしめて笑い続けた。
いや、笑い事ではない……笑い事ではないぞ?
僕の産みの母親は『塔子』だと、20歳になった時に両親が話してくれた。
僕の今の父親は本当の父親。
つまり、父がこの塔子さんと浮気をした結果が僕なのだ。
当時、両親は不妊症に悩んでいたそうでツラい不妊治療に嫌気が差した父がたまたま浮気した相手が17歳だった塔子さん……歳を誤魔化してスナックで働いていたので、まさか未成年だとは思わなかったと父は言い訳していた……いや、浮気した言い訳にはなってないのだが。
まあ、それがドンピシャで当たってしまったのだから皮肉なものだ。
父が浮気した相手が妊娠した事を知るや、母は塔子さんに土下座して『産んでくれ』と頼んだらしい。
塔子さんは孤児で他に頼る宛も無く、条件付きでそれを承諾した。
自分を大学まで通わせてくれる事、産まれた子供には会わせない事。
それが条件だったと聞いている。
「お2人共お元気か?ああ、こんなに立派になって……なんと感謝したらっ」
いや、だからそれどころでは無いと思う。
だって2人共全裸だし……っていうかヤッちゃったし……ってか、実は48歳って年齢詐欺か?どうみても50歳前には見えないんですけど?!
それより……この感情をどうしたらいいか……惚れてしまったのに、母親でした残念!って納得できるかっ。
「どうした?晴樹?」
どうしたもこうしたも。
「……僕に会わなかったのは何故です?」
聞きたいのはそんな事ではなかったが、僕の口からはその言葉が出た。
「そんなの、拐って逃げたくなるからに決まっているだろう?奥様から20歳になった時に話したとは聞いていたが、それでも会う気はなかった」
もし、会っていたら……知っていたら惹かれる事はなかったのだろうか?
僕の複雑過ぎる心情を知ってか知らずか、塔子さんは「一緒に食事に行こう」と、ウキウキしながらバスルームに消えたのだった。
それから、僕と塔子さんの不思議な関係が始まった。
まるで恋人のようにメールや電話のやり取りをし、デートをして身体を重ねる……親子なのは分かっていたが、彼女を目の前にするとどうにも我慢出来なくなる。
塔子さんはそれを当然のように受け入れ、幸せそうに笑っていた。
彼女が僕を『息子』と見ているか、1人の『男』と見ているのかは分からない。
ただ、僕は塔子さんを『母親』と見る事は出来なかった。
遺伝子的に母親だとしても彼女は僕の運命のヒトだ。
離したくない、離れたくない……だから、彼女に僕の気持ちは伝えないし、彼女の気持ちも聞かない。
ゆらゆらと運命の狭間で漂う事を選んだ。