サクラ大戦〜独逸の花乙女〜-4
「東郷閣下の推薦もあるし、君なら適任だろうと俺も思っている」
「……了解しました」
龍一郎の返事を聞くとダイリーは続ける。
「解っていると思うが、俺が正式に任命するまでは他言無用で頼むぞ」
「はっ………」
「それでは話は終わりだ」
龍一郎が部屋を黙礼して出ていくと、ダイリーは机の端末である場所に回線を開く。
「はい、ダイリー中佐かな?いきなりどうしたんですか?」
若々しい男の声が届く。
「こちらに天城龍一郎少尉と東郷かすみ君が到着したよ」
「そうですか、こちらも盆栽を形作る針金が届きましたよ、少々強度が足りなさそうですがね」
ダイリーは手を口に当てて言う。
「サニーサイド、我々は非道い人間だな、ただ戦場に彼等を追い立てるだけとは………」
「中佐は真面目ですからね、ボクは悪者には馴れてますから」
端末の向こう側の彼は努めて明るい声で言う。
「それではお互いに悪者になりきるとしようか」
「そうですね、それではまた」
ダイリーは通信が終わると、椅子を回し、窓の方を向く。
「昌明、貴様の息子は立派になっていたぞ、まだ昇竜だが、いずれ龍神となろう………」
ダイリーは空に向かい一人呟く。
その頃、龍一郎はミラビリーシャの中を見回っていた。
「だーれだ!?」
いきなり後ろから手が出てきて龍一郎の視界を覆う。
(この声は……)
「かすみさんか?」
「正解!よく解ったな、少尉」
視界を覆っていた手がどけられ、龍一郎は後ろを向く。
(温かい人間味のある手だったな………)
かすみは頬を染めて、俯きながら龍一郎に話しかける。
「少尉、あのさ………」
「……?」
龍一郎が怪訝としていると、彼女は一枚の紙切れを取り出すとボソボソと呟く。
「アスカさんから宿泊先の地図を貰ったんだけど、場所が解んないんだ………」
(ああ、そうゆう事か……)
龍一郎がやっとかすみの意図に納得していると、かすみは大きな体をすくめて伺うように聞く。
「少尉の宿泊先を同じ場所みたいだし、一緒に行かないかい?」
大きな瞳を潤ませて、すがるように龍一郎を見る。
「………解った、それでは行こうか」
悲痛な表情が一転、地獄に仏を見つけたかのような明るさが顔に満ちていく。
「これが宿泊先の地図だから、よろしく頼むよ、少尉」
紙切れを龍一郎に渡して、ミラビリーシャの出入り口を目指して歩く。
「ちょっと待ってくださ〜い!」
出入り口の扉を開けようとしたら、ミリーに呼び止められる。
「アスカさんから、これを二人に渡しておいてって頼まれたんです」
といって、銀色の腕時計を渡す。
「ミリー、これは?」
かすみの問いに、ふっふっふと不気味に笑うと、説明を始める。
「これはキャラメトロンといって通信機としても使えるのです〜♪」
陽気に使い方を説明していくミリー。
「解りました、ご苦労様、ミリー」
「了解」
説明を聞き終えた二人はキャラメトロンを腕にはめる。
「そういうば、二人っきりでどこ行くんですか〜?もしかして、早速デートですか?龍さんもなかなか手が早いですね〜♪」
ミリーが手を口に当てて意地悪く笑いながら聞く。
「ち、違うよ!これから宿泊先に行くんだよ!」
案の定、ミリーの思惑通りにかすみは顔から火が噴くのでは、と心配するぐらい顔を赤面させて、慌てて否定する。
「少尉もミリーに言ってやってください!」
ミリーにくすくすと笑われていたかすみは龍一郎に助けを求める。
「龍さんは、デートのつもりだったんですよね〜?」
笑いながら茶化すミリーにかすみは叫んで否定する。
「違うって言ってるじゃないですか!」
ミリーはこれ以上からかうとまずいと思い、くすくす笑いながら去っていく。
「行くか、今日はもう遅いし、早く宿泊先に着いておいた方が良いだろう」
龍一郎がキャラメトロンを見ながら言う。
かすみはまだ頬を染めたまま無言で頷く。
地図に書いてある宿泊場所を目指して二人は歩く。
さっきミリーにからかわれたことが尾を引いてかすみは終始無言で俯いていた。
しかし、ずっと俯いていたかと言えば、そうではない。
時折、龍一郎の方を向いて、視線が合うとまた俯いてしまう。
「着いたぞ、おそらく此処の筈だ」
かすみが顔を上げると視界にはドイツに似つかわしくない日本にあるような豪邸が建っていた。