サクラ大戦〜独逸の花乙女〜-15
「解った、覚えておこう………」
二人の間の不穏な空気を何とかしようとかすみが割ってはいる。
「隊長っ!行こうぜ、早くしないと帰りが遅くなっちまう」
このままにしておいては何が起きるか解ったものではない。
かすみの取れる行動は二人を引き離すことぐらいだった。
二人はミラビリーシャを出て、大通りに向かって歩いていた。
「今日はベルリン駅通りにあるっていう雑貨屋に行きたいんだ」
さっきまでの出来事があるために努めて明るく喋るかすみだった。
「そうか、じゃあ蒸気タクシーで行くか?」
「うん、行こ…………!?」
龍一郎の問い掛けに笑顔で答えようとしたかすみの顔が曇り、ある方向に視線が向けられる。
「あれは………」
龍一郎もかすみの視線を追ってみると、ある少女が大男に囲まれていた。
「事情は知らないけど、ほってけないね!」
かすみはそう言うと少女に向かって走り出す。
龍一郎も走り出し、かすみに並ぶ。
走り並ぶとかすみがこちらを向いて、笑う。
少女までの距離は100メートルと離れておらず、十数秒とたたず少女達の喧騒の場に到着する。
「ぶつかっておいて、詫びの一つもねえのか?嬢ちゃんよぉっ!?」
大男の剣幕にも臆した様子もなく少女は口を開く。
「ぶつかったのは其方であろう、謝るならば筋違いであろう」
少女は自分の二倍はあろうかという長太い柄のついた袋を引きずって立ち去ろうとする。
「待てや!兄貴の言うことが聞こえなかったのか!」
大男の弟分の二人が少女を呼び止める。
「それは、こちらの台詞じゃ!急いでおるのだ、邪魔をするな!」
少女の鋭い視線にたじろいた大男達だったが、相手が少女だと再認識すると、傲慢な態度で拳の骨をポキポキと鳴らし、少女を脅迫する。
「なら、痛い目を見な!」
大男の一人が少女に殴りかかる。
「ちっ……!」
少女は袋のカバーを外そうと身構える。
「そこまでにしておけ…………」
そこに龍一郎が割って入り、大男の拳を片手で止め、少女の目の前に掌を翳して、動きを制する。
「何だ!?てめえは?」
大男の一人が龍一郎を睨み付ける。
「何があったか知らんが少女一人に大の大人三人掛かりとは、恥を知れ」
少女に殴りかかろうとした大男の兄貴分が顔を真っ赤にして、怒鳴る。
「うるせぇ!わざわざやられにくるとは良い度胸だ!」
兄貴分が手招きをすると、後ろにいた二人がやって来る。
「かすみ、その子を連れて下がっていろ」
大男達から目を逸らさずに龍一郎は伝えると、かすみは頷いて少女の手を取る。
「ほら、こっちに来るんだよ」
少女とかすみが下がったのを横目で確認すると龍一郎は大男達の方に目を向ける。
「あっ………!」
大男の弟分一人が龍一郎と目が合うと、驚いたように声を上げる。
「どうした?」
不審に思った兄貴分が問い質す。
「兄貴!ソイツはこの前のレストランの野郎だ!」
「何ぃ!?本当か?」
兄貴分が弟分の方を向いて問うと、弟分が首を縦に振る。
「ふんっ、イエローモンキーが!この前は邪魔が入ったが今度はそうはいかねえ、覚悟しやがれ!」
大男達はいきり立っているが、その矛先にいる龍一郎は至って冷静だった。
「御託はいいからさっさと来い………!」
鋭い目つきで睨まれた大男達は文字通り立ち竦んだ。
(な、何だ!?こいつは………!)
生物としての本能が目の前にいる男にかなわないと警鐘をけたましく鳴らしている。