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勝利の女神は側にいる
【その他 官能小説】

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勝利の女神は側にいる-3

『祐子ちゃん…』
『どしたの?また負けた?』
彼女の元気な声。それとは全く対照的な僕。まともに顔が見られない。
『ホント、どうしちゃったのよぉ。男らしくないなぁ!』
『……』
言葉が出なかった。誰かに言いたい、聞いて貰いたい。そんな思いはあった。けど、それが口から出てこない…
『あ〜っ!そんなウジウジしてもカッコ悪いだけだって!少しはシャキッとしなさいよっ!』
確かに。いつまでも済んだ事を引きずっても始まらない。ムリヤリにでも気持ちを切り替えなきゃ。
『ね、ね。仕事終わってるんなら店においでよ。イヤな事なんかさぁ、スロット打ってパ〜っと忘れちゃえばイイじゃん!』
『…そうだね。少し、気晴らしするかな?』
『じゃ、そうと決まったら行こっ!
もうすぐ私も、休憩時間が終わるからさぁ。』
彼女が僕の手を握ってきた。あったかくて柔らかい手のひら。今の僕にはそれですら癒してくれる材料になる。
『さぁ、行くよっ!』
そのまま手を引っ張られ、ホールに連行された。

−時間は夕方の6時。商店街は遅い買い物を済ませた主婦や、帰宅途中の学生などで賑わっていた。二人の目的地はその奥にある。
[パチンコ・ライジング]
ココが彼女の勤務先。そして、僕が通っているホールだ。
…ガーッ!
相変わらず、ホール内は客でごった返していた。
『あれ?祐子ちゃん。今から仕事かい?』
常連のオジさん達が、彼女に声をかけてきた。
『さっきまで休憩してたの。で、戻る途中にフミ君を連れてきちゃった。』
『おおっ、若いのっ!祐子ちゃんと同伴出勤とは、羨ましいなぁ。』
『もおっ!そんな言い方、ダメだよっ!!フミ君、今日は落ち込みモード入ってるんだから。』
他の常連さんと気さくに話す彼女。誰とでも分け隔てなく接する姿勢。非常に好感が持てる。
『ほらっ!フミ君は台を選ばなきゃ。私は仕事に戻るけど、頑張ってねっ!』
そう言うと、彼女は景品交換のカウンターに向かった。
僕は僕で、いつも通りに空いてる台を探す。
幸い、ふたつの台が空いていた。超人気機種の北○の拳。この時間に空いてるなんて珍しい。とりあえず、過去のデータを見比べる。
《どっちも一緒か…》
テンションが上がらない状態。もう、どちらを打っても変わらない、そう思った。
コインを買って流し込む。
…カシャカシャッ!
…ベンッ!ベンッ!ベンッ!

−財布の中から1000円札を取り出す。これでもう、一万円は使っている。しかし、全くダメだ。ウンともスンとも言わない。
《ダメかぁ…》
うなだれる僕。もう、全然絵柄が揃わない。
…コトッ!
僕の脇にコーヒーが置かれた。彼女だった。
『フミ君、調子はどう?』
『全くダメ…出る気配すらないよ。』
『あちゃ〜。最悪じゃん。ごめんね、私が誘っちゃったから…』
『そんな事ないよ。勝つ時もあれば負ける時もある。祐子ちゃんの責任じゃないよ。』
今日は午後からツイてない。そんな諦めの入り交じった返事だった。
『とにかくっ、コーヒー飲んで気分転換して。そうすれば、もしかしたら出るかもよぉ〜。』
彼女の満面の笑み。多少は救われた、そんな気がした。
『じゃ、私はカウンター行くけど、今度はドル箱抱えてから来てねっ!』
笑顔で仕事に戻った彼女。ほんの少しだけ、気持ちが晴れやかになった気がした。彼女がくれたコーヒーに手を伸ばす。
…ゴクッ!
『ちょっと苦いな…』
気を取り直して台を回す。
《勝つぞっ!勝って彼女の前に行くんだっ!》
そう思いながら…
−『ダメだぁ〜…』
ついに投資額は二万円を超えた。いつもの僕なら、一度くらいは当たりを引いているはず。しかし今日は、完全に遊ばれてる。
《やっぱ、ツイてないのかなぁ…》
そう思いながらもコインを入れる。
『全然みたいだなぁ。』
聞き慣れた声。振り向いた僕の目に、専務の姿が見えた。
『あっっ!せ、専務…』
『会社クビになった夜にパチスロかぁ。お前も優雅だな。』
『いっ、いやっ…こっ、これは…その…』
焦りまくる僕。しかし、いきなり笑いだした専務。
『はははははっ!悪い悪い。ちょっとだけ皮肉ったんだよ。』
『……えっ?』
『聞いたぜ、和哉から。それに、この店のお姉ちゃんからもな。』
今日の僕の行動、それを全て知っている様子だった。
『あのぉ…専務…』
『なぁ史彦、場所変えないか?お前、この台サッパリだろ。』
『え、えぇ…全く出てません。』
『よしっ!じゃ、行くかっ?』
専務からのお誘い。オマケに全然出てない台。断る理由などなかった。


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