The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-1
多くの犠牲を払った雪原戦から1ヵ月後、今国家戦が行われようとしていた。
それぞれの新たな人生が始まる事に誰も気付かぬままに。
それは仕方のないことかもしれない。
そう思わせるほどこの1ヶ月間は平和そのものだった。
城外はまだ深い夜闇に覆われており、静寂そのものをかもし出している。
まるでこの会議に参列している者のみが、この世界の住人であるかのように静寂すぎた。
「雪原戦の痛手が高じ、バイサスの局地戦での動きはこの1ヶ月間ほぼ沈静化された。
今この時、軍備を整えつつあるバイサスを一気に押し潰す好機だ。
皆、身命を賭し全力で事に当ってもらいたい。
だがな、忘れるな。
お前達自身が、あの雪原戦で戦った時の事、生き残って感じた事を。」
マルトースは作戦会議の参加者達を一望する。
彼らの瞳に映るそれぞれの意思を確認した。
言うまでもないことだった。
彼等自身が一番それを理解している。
思わずマルトースは、苦笑いをこぼしそうになってしまう。
それを堪え一呼吸置いてから、右手を前方にかざし一気に右へ振り払う。
「行け」
マルトースは彼らの瞳を見て、昔を思い出していた。
彼自身も多くの戦場を駆けた時、彼らのような瞳をしていたことを。
昔を懐かしく思う気持ち。
彼らと、共に戦場を駆け抜けたいと思う気持ち。
しかし、この若い者達が、
既に自分から手の届かないところまで強くなってしまったように感じる。
彼らの瞳を見て、自分の手から離れて行く我が子を見届けるような気持ちになってしまった。
生きろよ…
会議が終わった後、各々は自分の部隊へ戻った。
ジャイファン軍はウェスタングレードへ向かい、行軍を開始した。
ただ誰もがいつもとどこか、何かが違うという事に気がつかなかった。
1ヶ月の間、それほどまでに平和すぎた。
夜空に佇む月と星、彼等にはその差異がわかるのだろうか。
おそらくきっとわかっている。
ただ人が、そのいつもと異なる雰囲気に気がつかないだけだった。
東の空が徐々に明るくなりつつある。
国家戦は山、平原、海の3箇所にある城を同時に攻略しなければならなかった。
それぞれの城は、三国が隣接する大草原とは異なる地域にあり、
どの国の領土でもない中立地帯、ウェスタングレードにある。
ウェスタングレードは南が海に面しており、西に高い山々が聳え、それ以外は平原が広がっている。
そしてそれぞれの場所に海上要塞、山上要塞、
そして広大な平原の北西よりに、平原要塞としての3つの城が構えてある。
大草原は西にバイサスと、東にイルスと、南東にジャイファンと接している。
ウェスタングレードは大草原の南西に接し、国家戦で城を二つ以上勝ち取った国家が、
局地戦時にその城を拠点とし、バイサス、またはジャイファンを迅速に攻めることができる。
大草原でのバイサスとジャイファンの位置関係を見ると、西と南東で大きく離れており、
南西にある国家戦の城を拠点にできるできないでは、両国家で大きな戦局の差が生じる。
ただし、この世界を取り巻く結界の力により、
2城勝ち取れなかった国は国家戦時にしかウェスタングレードに入ることはできない。
以上を踏まえると、国家戦では2つ以上の城を手中に収めなくては意味がない。
しかし、かつてジャイファン軍は確実に2つの城を手中に収めようと、
海上、山上の2つの城を攻め落とそうとしたことがあった。
それを平原要塞のバイサス軍に後ろを包囲されそうになり、退路を失い危うく全滅するという、
手痛い経験がある。
ゆえに今ジャイファン軍は、部隊を3つに分け、それぞれの城へと行軍している。
ルアーノが山上要塞、アランが海上要塞、
そしてジャイファン軍総司令官であるヴァルキリーが平原要塞へと、それぞれが部隊を率いている。
レクサスとリトが山上、シュリとハームが海上、アイサとリーフが平原に編成された。
バイサスに傭兵として参加することができないイルス軍は、
各々が自由にジャイファン軍と共に行軍している。
バイサスに敵対意識を持っているシューナやアンジェリーナといった者達だ。
中立国家としてのイルスは、バイサス、ジャイファン両国家の軍事力の均衡を保つため、
全城保有する国家側には傭兵として参加できない。
イルス国では、雪原でのバイサスの大敗を受けてもなお、
未だ3国ではバイサスが最強の軍事力を誇っていると信じて止まない者も多く、
3つの城全てを所有するバイサスには敵わない、無駄死にしたくはないと思う者も多かった。
そのようなバイサス派のイルス人が未だ多いため、今回のイルス参加者も依然として少ない。