The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-8
そして一瞬アイサの右目が視界の隅にリーフの姿を捉えた。
ここで保護魔法を貰えばこの不毛な戦いも終わるなどと喜ぶ事もなく、
今まで冷静に戦ってきたアイサは状況を把握してしまった。
いつの間にか後方拠点が前線にやや引き上げられ、
リーフの立つ位置と今いるアイサの位置がそう遠くはないこと。
そしてアイサとノヴァの距離も、そう大きくは離れてはいないことに。
彼女達は長くはない1本の直線上に立っていた。
ノヴァの次の攻撃が横状のアイスブラストであれば、
アイサ自身が避けても後方にいるリーフは怪我は負うだろうが、まだ生存確率は高い。
ただ問題はリーフ自身の保護魔法効果が切れていないかということだ。
しばしばプリーストは他者に魔法をかけることに専心してしまい、
自分の保護魔法効果が切れていることに気付かず、敵の攻撃を受け死ぬ場合がある。
そしてノヴァが縦状のアイスブラストを放ち、アイサが避ければリーフは確実に、死ぬ。
そこまで考えてアイサは下唇を噛みノヴァを睨んだ。
「さぁて、どうするのかな?」
この状況を理解したかと、ノヴァは彼女に不気味な笑みを浮かべている。
そして、ノヴァから縦状のアイスブラストが放たれる…。
リーフは後方拠点で味方に保護魔法をかけ続けている。
拠点をやや前方に移したことで、
こちらを狙って敵ウィザードのファイヤーバードなどが襲ってくることもあるが、
絶対防御魔法サンクを纏ったヴァルキリーの前で掻き消される。
そしてヴァルキリーは城門付近の戦闘の様子に注意を払い続けていた。
リーフは拠点に来た仲間に保護魔法を掛け終わると、ふと左前方に視線を移した。
リーフの目は、アイサが肩で息をしながら全身に傷を負って立っている姿を映していた。
無情にもリーフの位置からはノヴァの姿は確認できない。
「アイサさん、保護魔法を!」
リーフはすぐさまアイサの傍へ駆け出した。
リーフの声に反応したヴァルキリーは、この3人の状況を見てしまった。
「アイサぁぁああ!!」
ヴァルキリーは彼女の盾になるために疾走した。
少しでも早く彼女の前へ立つために、周囲のことを気にすることなく一目散に。
たとえそれが間に合わないとわかってはいても。
彼なら、彼女に襲い掛かっている攻撃を難なく耐えられる事ができるから…。
アイサはリーフの声に反応し彼女へ振り返る。
アイサはにっこり笑っている。
そして、前に倒れこんだ。
アイサの後ろから離脱し始めるノヴァの姿をリーフは見てしまう。
リーフはこの無情な現実とようやく対面した。
彼女は衝撃で思考と色覚の失われた世界へと一瞬誘われる。
気がついた時はアイサの下へ駆け出していた。
アイサのゆっくり、とてもゆっくり倒れこむ姿は現実を語っていた。
胸が締め付けられるほどにアイサの髪が美しく舞う。
倒れこむアイサの背から氷を纏ったナイフが5本、ゆっくりと姿を現した。
「アイサ!!」「アイサさんっ!!」
リーフとヴァルキリーはアイサに駆け寄り、そっと彼女の体を横に起こす。
アイサは微笑んでいる。
リーフは膝を地に付け彼女の顔に自分の顔を近づける。
ヴァルキリーは片膝を立てて腰を落としている。
国王である自分の父に謁見する姿勢と同じく、アイサに敬意を表すように。
「お前…、ルアーノよりも…強くなりやがって。」
ヴァルキリーはアイサの行動が理解できた。
だから、ヴァルキリーはそう言ってあげた。
そして彼女の髪をそっと撫でた。
「へへ…、良かった…。
最期に、……大きな、仕事、できて。」
リーフの瞳から大粒の涙が溢れている。
自分の命を庇ってくれた彼女に対して、ただ泣く事しかできなかった。
アイサは自分の命の灯火がそう長くはない、と薄れ行く意識の中思った。
「ねぇ…、リーフ、おねがい…、アラン…と…、しあわせに…なって…ね…。」
リーフはそんなことを言わないでといった表情で、アイサの顔を涙を流しながら見つめている。
アイサの一言によって堤防を決壊されたリーフの涙は、ただ加速した。
一方でアイサの目はゆっくり、ゆっくりと閉じていった。
彼女の目が閉じられた時、小さな涙の雫が一粒こぼれた。