The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-22
弱い風が吹いてきた。
雲の形が微妙に変化している。
上空ではやや強風になっているのだろう。
「アラン…、アイサの気持ち、無駄にするなよ…、そして、絶対に守りきれ。
これはお前自身がやらねばならないことだ。」
彼等がアイサを想う沈黙はヴァルキリーの声で破られる。
どれだけの沈黙だったかはわからない。
かつてのアランであれば、もう現実を見たくはないという程に固く目を閉ざすのだろう。
ただヴァルキリーが近づくとその目は徐々に見開かれた。
その瞳は、心は、現実を受け入れていた。
「会議室でマルトース様が命令の内容を話しているだろう。」
彼の瞳の奥にあるものを見たヴァルキリーは、初めてアランに対して微笑みを見せる。
そしてアランに背を向けると、行ってこい、とだけ言った。
アランは深々とヴァルキリーに一礼する。
痛む体を微動だにせず、彼はしばらくの間腰を深く曲げたままだった。
その姿勢の対象は、ヴァルキリーにだけではなかった。
ヴァルキリーはこの場から去っていく足音を聞きながら、白い雲を見つめている。
「これでいいんだよな…アイサ。」
漂う雲は彼に答えを示さない。
1つの方向へ向かって流れているだけだった。
けれども、もう答えは必要なかった。
踵を返しレナスの守りへと歩を進める彼の背中を、そっとアイサが押してくれた気がしたから。
彼もまた固い意思を胸に秘め己の弱さを越えて行った。
アイサへの気持ちとこの国の未来を護りきるために。
シューナとアンジェリーナの兄は国を守るために死んだ。
ただしヴァルキリーはその遺された者たちを見て、そしてアランとリーフを見て理解した。
死を以ってしてもシーフを倒そうとした彼は既にいない。
レクトの息子、ストリームブリンガー団長としての彼が、そこにいた。
眩しく煌いている日差しが彼の進む先を照らしていた。
いつになくあたたかい光が。
―――団長 頑張ってね………
「恐らく奴は今夜イルスへ侵攻するだろう。よってお前達には他国と共闘して奴を倒してもらいたい。
危険な任務だが、任せて良いか?」
レクサス、リト、リーフは黙っていた。
その時アランが会議室の扉を開けた。
マルトースが驚いた表情で声を掛ける。
「アラン、お前はまだ」
「やっぱり、来ると思ったぜ。」
レクサスがいつもの様に笑顔で言い、マルトースにアランを追い返させない。
「マルトースさん、俺とこいつは昔から腐れ縁だからな。諦めてもらうよ。」
リトがくすくす笑っている。
リーフは懇願するような面持ちでマルトースを見ている。
そしてアランがマルトースの前に立った。
アランは先程の澄んだ瞳と、もう1つ、揺ぎ無い意思を宿した瞳をマルトースに見せた。
「全く…。わかった、いいだろう。」
「有難う御座います。」
アランは背筋を伸ばし礼をする。
リーフはどこか遠慮しているが喜びを隠せないでいた。
「では、早速イルスへ向かってくれ。アラン、既にイルスへは支援を通達した。
後はお前が指揮し、事に当ってくれ。」
「了解致しました。」
定めは動き出した。
4人の、そして生きる者全ての。
窓の奥に漂う白い雲のようにただ1つの方向へ向けて、決して止まることなく動いた。