The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-20
国家戦および1人のシーフによるジャイファン侵攻から2日が経過した。
窓の外ではそよ風で木々の葉が心地良さそうになびいている。
城の広い会議室には鮮やかな日差しが大きく差し込む。
そこにマルトース、ルアーノ、ヴァルキリーが深刻な面持ちで話し合っていた。
彼等の場だけが深い闇に覆われている。
気持ちが如実に現実へと形容されていた。
どれだけ思考を繰り返しても、あのシーフの打開策が見出せなかった。
「私は50余年の歳月をここで過ごしているが、そのような者は見た事が無い。
ルアーノが見たこの世界には存在しないナイフ…。
やはり考えたくは無いが、異世界の者、と定義付けるしかないのかもしれんな…。」
「私も奴と2度直に相見え戦いましたが、奴の動き、攻撃力、そして防御力は異常です。」
「国家戦では非人道的ではあったが、バイサスから見ればジャイファン人の正常な行動と言える。
だが、なぜ奴は我が国の紋章を付けていて、それでいてここを襲ったのか…。
ルアーノ、イルスはこの件をどう見ていた?」
「イルスは国家戦での奴の行動は確かに正常なものと判断していた。
ただ、やはり脅威となり注意を払うべき人物と断定したようだった。
だけどジャイファンが国家戦の後に奴に襲われたって説明をすると、
すぐにバイサスに伝令を遣わしてくれた。
イルス自身も厳戒態勢を執ったよ。」
「そうか…、なんとかして3国で打開策を練る事ができればいいのだが。
奴の強襲によって多くの命が失われ過ぎた。
このままでは奴に滅ぼされる…。」
その時会議室の扉がゆっくりと重い音をたてて開かれた。
会議中失礼致します、と申し出て一礼する王国騎士団兵の隣に、
膝に手をつき息を弾ませているイルスからの使者がいた。
何かあったことを予期させるに相応しい使者の様子ではあったが、
その顔色を窺い知ることはできない。
「どうした?」
ヴァルキリーが問うと使者はひどく恐慌した顔を見せた。
「バ、バイサスが…、バイサスが壊滅したとのことです!」
それを聞いた瞬間マルトース達は席を立った。
だが開戦以来ジャイファンを苦しめた国家が、雪原戦や国家戦の被害を被ってはいるが、
僅かな時間で壊滅してしまうとは信じられなかった。
そっと使者に近づきマルトースは僅かな希望にすがる。
「少し落ち着いてから、詳しく聞かせてもらいたい。」
使者はマルトースの穏やかな声により、幾分恐慌の気持ちを抑え呼吸を整え始めた。
それを見てマルトースは自席に戻り、ルアーノとヴァルキリーも座り直す。
ただ彼等の心の内では、この使者の胸倉を掴んででもすぐさま問い詰めたい心情ではあった。
「…失礼致しました。
今朝方日が昇る前に、彼の国からの使者が参りました。
そして、昨晩、例のシーフに襲われ被害は甚大、多くの人命が失われたようです。」
マルトース達は不謹慎ではあるが、僅かに安堵した。
だが、これで残る標的はイルスのみとなった事は確実だった。
マルトースが先程発した、滅ぼされる、という言葉が会議をしている彼等に重く圧し掛かる。
再び険しい表情になるマルトースだが、なにやらあることを思案していた。
それに気がつかないヴァルキリーは右肘を机につき、こめかみを親指と人差し指で押さえ、
項垂れていた。
成す術を見出せない事に苛立ちを隠せずルアーノは落ち着かない。
自然と動作が多くなっていた。
そして耐え切れず席を立とうとした時、マルトースが開口する。
「御苦労であった。そなたには至急本国へ帰還し厳戒態勢を怠らないようにしてもらいたい。
そしてジャイファンからも救援を遣わすと伝えてくれ。」
驚愕により目を見開いた使者は僅かな希望を内包させた機敏な動作で一礼し、即座に退室した。
マルトースの言葉にルアーノとヴァルキリーも使者同様、食い入るようにマルトースを見つめている。
「なに、賭けをしてみた。
それにだ、イルスが陥落した場合の事を考えると、世界の終焉を感じてしまってな。
同じ事をバイサスも考えて欲しいとの希望を持った。
仮に遅かれ早かれ世界が終焉の時を迎えるのであれば、
事態がまだ良い時に動いたほうが好転する可能性もあろう。」
ルアーノもヴァルキリーも昨日まで殺し合った敵と手を組む事には反論の気持ちが生じたが、
黙って死を待つよりはまだ良いという結論を出した。
そうせざるを得ないほどに、今世界は逼迫している。
「ただし、奴の行動は不可思議かつ非人道的な点が見られる。
イルスを狙うと見せて、弱体化した我が国やバイサスを狙うということも考えられる。
………うむ、参加者はレクサス、リト、リーフの3人だ。
精鋭として申し分ないだろう。」
「いや、俺も行くぜ。」
ルアーノは相手が同じシーフである事により、
そしてこの鬱憤を晴らすかの如く血気盛んになっていた。