The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-14
リーフが墓地で泣いている頃、レナス外部の部隊はサンクを得ていない者以外、全滅していた。
「誰か、急ぎレナス市内へ伝えろ!」
ヴァルキリーはそう言いながら盾を前にして左足を一歩踏み込み左肩を入れ、
大きく振りかぶる剣を頭の後ろで垂直にして隙を窺っている。
ハームがヴァルキリーの反対側からシーフの右に向かってマルチを放つ。
避けなければ2本の矢がシーフに命中するという位置へ。
そしてヴァルキリーは自身の右前方へ駆けた。
シーフはハームのマルチを左に跳んで避ける。
ヴァルキリーの目の前に背中ががら空きのシーフが飛び込んでくる。
間髪入れず、振りかぶった剣を左下方向へ振り下ろす。
ただし、手ごたえはなく、それは虚しく空を斬った。
ヴァルキリーの振りが遅いわけではない。
むしろいつも以上に早かった。
ただシーフの俊敏さの方が圧倒的に上手だっただけのことである。
そしてシーフは粗方殺し尽くしたという満足気な表情を見せると、レナス市の方へ向かった。
ヴァルキリーは苦虫を噛んだ。
生存者よりも死者の方が多く、生きている者も疲労と恐怖に襲われている。
「これは命令ではない。
レナスを守りたい者だけついて来い!」
そう言ってヴァルキリーは馬に乗り、疾駆させる姿をレナス市方面の森へと消した。
その場にいた誰もが最早無理だと諦めていた。
しかし、彼だけは、諦めるわけにはいかなかった。
アランがレナス外部から疾走してきた伝令を見つけた時、
既にレナス市へと続く橋付近にあのシーフは迫っていた。
「ウィザードをここに集めろ!
そしてサンクが掛かったものが前面に出て壁を作れ!
住民は城へ避難させるんだ!」
アラン達は広場に待機していた。
城へ向かうには必ずこの広場を通り抜けなければ辿りつくことはできない。
そしてアランは剣を抜き、どこから来るかわからない敵を待つ。
アランの後ろではウィザード達が各々呪文詠唱を始めている。
「アラン」
「お前もサンクもらっておけよ、敵は強い。」
「わかってる、まだ命は惜しい。」
レクサスが言い終わった時、右前方から悲鳴が聞こえ始めた。
「来るぞ!」
アラン達の方へ向かって逃げてきた女性が、彼等の元へたどり着く前に背中を射抜かれ死んだ。
ナイフの軌道の先を追うと、民家の屋根の上にあのシーフの姿があった。
「放て!」
アランの声と同時に10匹のファイアーバードがシーフ目掛けて飛んで行く。
レクサスを始めアーチャーやシーフも一斉に攻撃する。
しかしそれらは虚しく屋根を轟音と共に抉っただけだった。
シーフはこれを難なく地面に降り立つことで回避し、
同時にアラン達目掛けて横状のアイスブラストを放った。
前面で壁を作る者たちは避ける事は許されないので、各々片足を後ろへ出して踏ん張り、
衝撃に備える。
だがサンクの保護効果はあるにしても神がかり的な威力の攻撃を前に、
アラン達戦士以外は踏みとどまる事は叶わず、後ろへウィザードを巻き込みながら吹き飛ばされた。
レクサスは民家の壁に叩きつけられ、その衝撃で壁にひびが生じた。
けれども保護魔法のおかげで傷を負う事はなく、すかさず、その民家の屋根に上り反撃の態勢を執る。
それを確認したアランはすぐさま命令する。
「シーフとアーチャーは屋根の上に!
上下から攻撃し、奴の動きを封じる!」
そして再びウィザードから火の鳥の群れが放たれた。
アーチャーとシーフは敵の動きを読みながら攻撃する。
敵の動きが早すぎて攻撃が当る事はない。
ただし攻撃の手を止めさせることは成功している。
その間にアランはこの打開策を講じていた。
シュリとリーフは煙の上がった方へと駆け出していた。
ただその現場へ向かう途中で逃げ遅れた住民の死体をいくつか見た。
そして、ネリアの倒れている姿がリーフの目に映る。
瞬時に表情は悲壮なものとなりリーフは堪らず叫んだ。
「ネリアさんっ!!」
慌ててネリアに駆け寄るシュリとリーフ。
「…まだ息はあるわ。
城まで運ぶ時間はない、ここで治療する。」
シュリは冷静に患部の状態とネリアの呼吸を確認すると、
治癒魔法を詠唱し始める。
それに倣うリーフ。
リーフは後先考えず、全魔力を解放させた。
(住民の避難はほぼ完了した。ただこちらのサンクが切れたら全滅だ。
…止むを得ない。)
「範囲魔法で片をつけろ!」
アランの命令によりウィザードは範囲魔法の詠唱を始める。
ただしアランは先程から命令をしていることで敵に目をつけられた。
縦状のアイスブラストがアランを襲う。
先程の横状の攻撃は堪えきれたが、今度ばかりはアランも覚悟した。
そして後ろのウィザードを振り向きざまに横へ押し退ける。
アランは背中にナイフの波を受け、猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
途中正面から細い木に激突し薙ぎ倒すが、止まる事のないアランはその先にある民家に突っ込んだ。