The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-10
前傾姿勢をとり右肩を入れ、先ほど鞘に戻した剣を右手で握り締める。
5本の矢がリーフの背後を狙っていたのだ。
全ての矢が甲高い金属音を立て、力を失った矢がヴァルキリーの前に静かに落ち始める。
するとヴァルキリーに一閃に抜刀された剣は大きな弧を描いていた。
振り切られるまで速度を緩めることなく。
そして矢は地面に落ちた。
ヴァルキリーは振り返るとゆっくりと伝令の元へ歩み寄る。
一度剣を勢い良く振り下ろし、剣を鞘に戻しながら。
僅かな雨が降った。
伝令の腕の中には、伝令が何か危険が迫り来ているといった表情を最後に見て、
それから何が起こったのか理解できていないリーフがいた。
伝令は彼女に襲い掛かるアーチャーの姿が見て取れたので、
ヴァルキリーが彼女の手を後ろへ引っ張った後、リーフを受け止めた。
そしてリーフが後ろを振り向かないよう彼女を制御している。
ただその後のことは伝令の目でも追えず結果しか見えていない。
ヴァルキリーが振り返った時に一瞬だけ見せた、
言葉には形容しがたい恐ろしく無表情な顔と共に。
「少し後ろで報告を聞こう。お前はリーフを連れてくれ。」
伝令がリーフを連れ後方へ下がり始めるのを確認したヴァルキリーは、
アイサの背からナイフを抜き彼女を抱きかかえ自らも彼らを追った。
その場にはヴァルキリーの恐ろしく研ぎ澄まされた理性によって、
綺麗に切断された首を持つ体と、地面に平伏している顔があった。
深紅に染まっている二つの大地がその場に残された。
伝令から事の次第を理解したヴァルキリーは、すぐさま前線へと戻り部隊の退却を始めさせた。
ジャイファン軍が撤退していくのをバイサス軍は追撃することはなかった。
1人のシーフが現れてしまったから。
そして、山上、海上に続きここ平原にも断末魔が響きだした。
「くそっ、なんなんだ奴は…。」
アイサが死んだ戦場を踏みにじられているようで、再びヴァルキリーは激昂する。
そこへ前方から退却してきたシューナとアンジェリーナが駆け寄る。
「早くあんたも引きなよ。」
「こんな奴に…この戦を終わらされて堪るか!!」
シューナが真顔でヴァルキリーの頬を思い切り引っぱたく。
「あんた、この隊率いてるんでしょ? あんた死んだらこの隊どーなんの?
そーなったら死んじゃった人たちも残された人たちも喜ばないと思うけど。
そんなこともわかんないの?
それとも何、あんたあいつを止めるとか考えてんの?
あいつの異常な強さわかんないの?
バッカじゃない、だったら勝手に死ねよ!」
アンジェリーナがシューナを必死に止めようとするが、
シューナはヴァルキリーを睨みながら言い続ける。
彼女の瞳には涙が浮かべられている。
「指揮官なんてどこの国もバカなやつばっか…。」
黙って聞いていたヴァルキリーはなんとか平静を取り戻す。
頬を叩かれた痛さや彼女の言う言葉の意味でもなく、彼女の涙が気になった。
「お前達イルスの者だろう、名前は?」
「バカに教える名前はない。
ほらアンジェ、こんなのほっといて行くよ。」
アンジェリーナは深々と腰を曲げて一礼すると、既に駆け出した姉を追いかけた。
ヴァルキリーは彼女達を詮索しようとしたが、この断末魔によってその思考は止められた。
いつ自分が巻き添えを食らうかわからない。
彼の脳髄では今は身の安全確保が第一とされた。
ヴァルキリーも後退りながら、この虐殺を目に焼き付ける。
こいつは… 絶対に …許さん
そして彼も駆け出した。