The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-5
「アラン、お前はどう見る?」
ヴァルキリーに話を振られアランは一瞬戸惑ったが、一呼吸置いてから話し始める。
「イルスは鉱物資源豊富なレッド山脈を有し、採掘資源を加工し、売却することで富を得ています。
またバランタンの市場は3国中最も活気があり、
バランタンへ行けば手に入れられないものはないと聞きます。
それだけの税収入と資源を得ているのであれば、水面下で軍事力を増強することも可能でしょう。
ともすれば、中立の大義を遵守しない者にとっては、
この現状は我らを攻め入る好機とも考えられます。
バイサス側の間者に欺かれ、戦に乗り気な者もいるかもしれません。」
推測の域ではあるが、戦争では常に悪い状況を考えて置くべきだ。
状況は常に変化し、固定概念は通用しない。
そうアランに教えたのは、会議が始まる以前から機嫌が悪かったヴァルキリーではあるが、
彼が話し終わったのをヴァルキリーは、なるほどな、という顔つきで彼を見る。
怒りの表情は既にない。
しかしヴァルキリー顔つきの意味することは、
自分の意見に対してなのかは彼にはわからないだろう。
ヴァルキリーは思っていた。
(アランが副団長に就任して以来、俺はずっとこのような場で意見をアランに振ってきた。
先ほどの意見は下手をすれば、話が脱線しかねなかったが、
確かにその意外性は払拭することはできない。
その意外性は可能性が高ければ、確実に我が国を窮地へと追いやる。
徐々にではあるが、ストリームブリンガー随一の剣術だけでなく、
戦術の知恵も得てきたかもしれないな。
しかし、俺が振った話は我々が動いた『後』のことだ。
動く『前』の話ではない。
マルトース卿も既にそのイルスの意外性に関しては考慮しているだろう。
ま、会議では口なし状態の以前のお前よりはましになったがな。)
「うむ、それも大いに考えられる。
ともかくこの状況が続くことは我が国にとってはとても不利な状況だ。
さすれば、我々が動いた後、いかにイルスの動きを牽制しつつ、
バイサスに打撃を与えられるかが鍵になる。
その鍵はお前たちストリームブリンガーだ。
まだ結成してから十分な時が経ったわけではないが、
レクト王もお前たちの活躍には御期待されておる。
ルアーノ、諜報活動、外交はお主等ギルドの得意分野であったな。
イルスを任せて良いか?」
「あぁ任せろ、マルトースさん。」
マルトースと向かい合った形で下座に座る男が応える。
ルアーノはジャイファン屈指のシーフであり、ルアーノ率いるギルドはシーフが多い。
マルトースに対しても敬語を使うギルドはアラン達ストリームブリンガーくらいである。
しかし、決してマルトースをさげすむものではない『それ』は、
信頼した者同士で使う『それ』と同じである。
ストリームブリンガーは国王直属のギルドであるが、
一般的なギルドは元々誰かに属するというものではない。
ギルドマスターの命令で、各ギルド員が個人の裁量で判断し行動している。
もっとも、個々の判断に依存する部分が多いため、
ギルド員の質で戦局が変化していくということも考えられるが、
自由裁量という強みを活かし、恣意的な行動が有利に働くこともある。
そして与えられた任務は確実にこなす、それがギルドの姿勢であった。
それゆえに、このような場では必要な事のみを発言する事をルアーノは心得ている。
既に視線はこの会議室にはなく、ルアーノの思考はイルスに向かっていることを表すかのように、
決意を秘めたその瞳はただ窓の外を見つめていた。
「では、1週間後の雪原戦でまずは勝利を得て、この戦局に変化をもたらすぞ。
バイサスもそろそろ我々が動くと見ているかもしれん、激戦になるだろう。
雪原戦までのレナス外部の守備はシュリに陣頭指揮を執ってもらう。
大きな行動に移る時だ、万一を考えた時、局地戦での被害は最小限に食い止めたい。
配備するギルドはお前に一任する。」
「了解。」