The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-19
正面から抜けた二人のシーフと戦士を、シュリギルドのシーフとウィザードが先手を取り、
それぞれ5本のナイフを同時に投げつける氷属性の技、
アイスブラストとファイアーバードで迎撃する。
敵シーフは絶命したが、戦士の方はこれだけの攻撃を受けて生存していることから、
保護魔法がかかっていることがわかる。
しかし、彼は多対一である状況では無謀だと判断し引き返した。
ただ彼は出過ぎてしまったため、自軍へ戻る前に保護魔法の効果が切れ、
運悪く、頭に兜の上から流れ矢を貫通させて息絶えた。
それを確認したシュリは、後方から馬が大地を蹴る音が聞こえた。
(やっと、来てくれたのね。)
そう思い、シュリがすぐさま後ろを振り返ると、リーフに補助魔法をもらいつつ、
肩で息をしているが力強い眼差しで前線を見つめるシーフ達の姿があった。
最も俊敏な彼らの姿の後ろに、ヴァルキリーの姿が小さく見えていた。
ある程度の数のシーフが集まってから、
リーフが滞りなく守備力増加の補助魔法がかかり終わったのを確認すると、
リーフは複数の対象者に攻撃力増加の効果を与える魔法、グレートプレイをかける。
まるでそれが合図となったかの如く、
既に呼吸を整え終えた彼らは、各々が捕捉した敵を殲滅せんと前線へ疾走した。
(さすがにストリームブリンガーともなると、私の状況報告もいらないのね。)
感心しながら送り出した彼らを見つめると、シュリの耳にヴァルキリーの声が後ろから聞こえる。
「すまない、遅くなった。」
言い方こそ違うが、アランと同じ事を言っているヴァルキリーが、
シュリには少しおかしく感じられる。
そんなシュリの顔色を気にせず、ヴァルキリーは前線の様子を見つめている。
「いえ、ご支援感謝します、ヴァルキリー殿」
「あぁ、…まずは防衛線の確保だな。」
ヴァルキリーと会話しながら、できるだけシュリはリーフの手助けをする。
「仰るとおりです。ですがノヴァのおかげで、だいぶ混乱させられているようです。
幸い敵方のほうが我が軍よりもプリーストは少ないと思われます。
前線の東にはアルフォンス、先程まで押されていた西側にはアランが加勢したことにより、
なんとか防いでおります。」
「あいつ今までいないと思ったら…。
わかった、レクサス、アイサ、ピノ、俺と来い、正面を攻める。
ほかは防衛線確保。確保できたらあとは好きにやれ。」
「なんで俺がご指名なんだよ、まぁいいけど。」
「頼りになるからだ。さて…、蹴散らすぞっ!」
レクサスとヴァルキリーの会話が終わるやいなや、ストリームブリンガーが散開した。
一方リーフは這うように地面についた。
魔力が底をついてしまったからだった。
いかにマルトースの弟子だからといっても、ほぼ一人で補助を賄うのには限界が見えてしまう。
しかし、問題はなかった。
先行したストリームブリンガーのシーフにより、既に防衛線をだいぶ押し上げることに成功し、
前線での補助が可能な体制になっていたから。
「よくやったわ、リーフ。後は私に任せていいから。
彼らが来た以上私もう指揮官としてやることないし。安心して休んでいいよ。
みんな、リーフが回復次第私達も援護へ向かうわ。」
リーフはそう言われても嫌な顔ひとつせず、魔力を回復させる動作をとる。
それを見るシュリの顔には、自分のギルドのプリーストを前線へ送ってからというもの、
美しい微笑みは封印されていたが、ようやく解放されたとびきりのそれがあった。