記憶と妄想-4
「へい、毎度!八百屋の富田ですっ」
短いコールの後、電話から威勢の良い声が聞こえてきて、美菜子は少し面食らった。
「あ、あの・・・えーと・・・」
なんて言おうか考えていたのに、全部吹き飛んでしまった。
「おっ!奥さんかい?」
受話器から音量の下がった声が聞こえてくる。
「あ、はい・・・注文を・・・」
「はいっ、ご注文!何にしましょ?」
紙切れに書かれていた手筈通りの文句が返ってくる。美菜子はふぅっと溜め息を吐き、答える。
「人参を、お願いします」
「分っかりましたぁ。すぐにお届けしますね」
店主の弾んだ声がして、電話はプツッと切れた。美菜子は携帯電話を持ったまま玄関の内側をうろうろする。10分ほど檻の中の熊みたいにしていた時、
―ピンポーン♪
玄関チャイムが鳴って飛び上がった。
「と、富田さん?」
ドアの傍で美菜子が呟くと、富田が“へいっ”と返事をする。美菜子は急いで鍵を外し、ドアを開いた。
「毎度っ!」
ずんぐりとした富田が入ってきてドアがバタンッと締まる。富田は抱えていた段ボール箱を持ったまま、玄関に立ち尽くして美菜子を眺める。
「あ、あの・・・上がってください」
美菜子はキッチンの夫の椅子を勧める。が、富田は足元に箱を置くと、奥の部屋を眺めた。
「この前の質問に答えてなかったね。おじさんは、おっぱいが大好きだよ。相談はソファで聞こうかな」
富田はリビングのソファに座り、美菜子にも隣に座るよう手招きする。
「あの、富田さんは・・・大きすぎるおっぱいも、お好きですか」
美菜子は富田の横にちょこんと座って富田を見上げる。
「大きすぎるおっぱいって、奥さんくらいの乳のことかい?」
富田が美菜子を見下ろし、特に乳房の辺りを丹念に眺める。
「はい・・・私の、美菜子のおっぱいって、気持ち悪いですか?」
美菜子はそれだけ言うのが精一杯で、突然ワァッと泣き出した。
「どうした、どうした?泣かない、泣かない」
いつの間にか富田に抱っこされていて、美菜子はその胸にすがっていた。富田は美菜子が泣き止むまで髪や背中を撫で続けた。
「美菜子ちゃんのおっぱい、僕はとても好きだよ。見てるだけでも良かったけど、こうしてても、すごく気持ちいい」