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夜半の月
【歴史物 官能小説】

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夜半の月-10

 目が覚めると、わたしは夜着を着た格好で、また布団に寝かされていた。
 きっと、さとがそうしてくれたのだろう。
 道長は、またもやいなくなっていた。
 起きた時にわたし一人というのは、何故だかとても寂しい気がした。

「ねぇ、さと。わたしはどれくらい眠ってしまったのかしら?」
「起きてしまわれたのですね、まだ夜中でございます」
「そう……左大臣様は……戻られたの?」
「はい。書き置きを、お預かりしております」

 さとからその書き置きを受け取り、目を通す。
 また、しばらく後に訪れるという事と、物語の続きを頼むという事が書いてあった。
 物語については、俺のような人間を書いて欲しいという注文がつけてある。
 わたしに強引にあんな事をしておいて、なんとも素っ気ない書き置きだ。
 もう少し、気の利いたことを書いておけないものだろうか。
 だが、道長らしいという気もした。
 道長のような人物というのは、すぐに頭に浮かんだ。
 権謀術数に長けた意地の悪い貴族の役だ。これが自分に与えられた役だと知ったら、道長はどう思うだろうか。
 それを想像して、わたしは少し笑ってしまった。さとは不思議そうな顔をしている。

「ねぇ、さと。紙と筆を持ってきてくれないかしら」
「あ、はい」

 わたしは布団から出て立ち上がり、襖を開けて、静かに表に出た。
 空を見上げると、星も月も綺麗に輝いているが、月は時折雲に隠れたりもしている。
 さとが、紙と筆を持ってきてくれた。

「さと、あなた……左大臣様のことが好きなの?」
「え!? そんな……わたしじゃ、歳も身分も違いすぎていて」
「人を好きになるのに、そういう事はあまり関係ないわ」
「……そうなのでしょうか」
「わたしにも、よくわからないけど、たぶんね」

 月を見つめていると、頭に言葉が浮かんできた。
 
 『めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 
                 雲隠れにし 夜半の月かな』

 浮かんだ言葉を、素直に紙に書きだしてみた。
 こうすると、心の中に隠れた何かを見つけられた気がして、少しすっきりする。

「あの、式部様も、左大臣様のことを好いていらっしゃるのですか?」
「……さぁ」

 それ以上は何も言わずに、二人でしばらく星空を眺めていた。


−完− 


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