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「夜店の告白」
【ホラー その他小説】

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「夜店の告白」-2


「出会いは、その人がまだ十七で俺がやっと独り立ちした頃――――」
「おいおい、恩人ってまさかその十七歳の子供か?」
 自分は話の途中にいらぬ合いの手を入れられるのを嫌ってはいたが、この時ばかりは聞かずにはいられなかった。しかし友人はさして気を悪くした素振りも見せず、「そうだ」と答え、続けた。
「独り立ちした頃といっても、やっぱり最初はそう上手くはいかなかった。飯だってろくに食えなかったし、第一寝床もなかった」
「ん?ちょっと待てよ。食いモンのことは知らないが、お前それなりのアパートで暮らしてたじゃないか。寝床はちゃんとあったぞ」
 まるで嫌味な聞き方をしてしまったが、それには、
「ない時もあったんだ」
 とぶっきらぼうに言い放たれ、さすがに苛立った様子だった。もう口をはさむのはやめよう。
「腹は減ったわ、寒いわ体は汚いわで、あの頃の俺は本当にぼろぼろだった。そんな時だ、あの人に会ったのは」
 ここで熱かんをおかわり。
「その人は本当に優しくしてくれた。出された食べ物は、どれも見たことのないものばかりだったけど、旨かった。それから、俺の汚い体を、石鹸とあったかい湯できれいにしてくれたし、毛もブラシで丹念にとかしてくれた」
 ん?
「いやぁ、本当に幸せだった。まさか人間ってのがこんなにもいい動物だったなんて、全然知らなかったよ。そりゃ中には、どうしようもない輩もいるだろうけど、あの人間のおかげで大分親近感が生まれた事は事実だ。おかげでしばらくそこを寝床にしていた」
 ん??何か・・・おかしかないか?
 それまで何の疑いもなく酌を交わしていた友人が、次第に別人に見えてくる。もう二度と話を遮るまいという私の決意が別段固いわけでもないのに、私の口は一向に言葉を発しなかった。と、突然、それまで珍しく笑顔を見せていた隣の男がしゅんと背中を丸くした。
「でもあんなことになっちまって。・・・お前も覚えてるだろう、あの大震災」
 下から見上げるように問いかけてきた男の瞳に、何故か涙がたまっている。私はそんな男の目から逃れられず、「あぁ」と言う答えもどこか上の空だった。
「あれはひどかった。俺の主人の家もほぼ全壊で、主人の父親と母親はそのせいで死んじまった。でも、俺達は助かった。奇跡・・・あぁそうだ、奇跡だな。ただまぁ、完璧じゃぁなかった。驚いた。気づいたら俺は主人に、主人は俺になっていたんだ。あるんだな、そういうことって。それからすぐ俺は『病院』ってとこに運ばれたから、そのとき以来主人とは会っていないよ。・・・あ、おじさん大根とはんぺん。汁もいっぱいね」
 箸の止まった私のおでん達とはまるで正反対の熱々の具を、隣の男はにこにこしながら店主から受け取る。そしてその顔のまま、
「最初はいろいろ戸惑ったなぁ。なんせ人間の言葉を発しなきゃならなかったし、目線はがらりと変わるし、ちょっと向こうへ行こうと思ったって飛べないし、作業といったら全部この指だろ。まぁ人間の諸動作は主人を見ていたから、何週間かしたら何とかなった。それにほら、俺達って割と頭いい種族だから、一度見たものは忘れないんだ。ただ、あの黒々した毛を纏えなくなったのが唯一の心残りだが、なんとか人間として上手くやっているつもりだよ。おかげでこんな旨い物を一生食っていけるし。・・・ん?どうした、顔色が悪いぞ。そろそろ帰るか」


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