隣の青い鳥-4
「た、ただいま」
慌てて視線を反らし、靴を脱ごうとした時。
「待って待って!ゴメンっ油買って来て!」
あう、緊張してたのに……普通すぎるよ、詩緒姉。
「ん。サラダ油?」
「オリーブ。今日はペペロンチーノよ」
千円札をはい、と渡され少し手が触れる。
それだけで僕はドキンとするのに、詩緒姉はさっさと台所に戻ってしまった。
はぁ……やっぱり見込みゼロかぁ……僕は盛大にため息をついて再び外に出る。
びっくりした、びっくりした。
亨の手に触れた瞬間、心臓が止まっちゃうんじゃないかって思った。
それぐらいドキドキした……バレてないよね?普通に出来てるよね?
私は赤くなったであろう頬をぺしぺし叩いて気合いを入れ直した。
家に戻ってからも詩緒姉は普通。
リビングも綺麗に片付けられており、昨夜の名残りがひとつも無い。
1人で片付けさせて悪かったな……っていうか綺麗にしすぎ……そんなに無かった事にしたいのか?
ダメだ……何もしてないと余計な事ばかり考えてしまう。
僕は立ち上がって台所に足を向けた。
「詩緒姉、何か手伝うよ」
僕が声をかけると詩緒姉は「きゃっ」っと小さく飛び上がって驚く。
「何?明日こそ雪なの?」
「あのね」
昨日と同じ会話……この後、僕は「下心がある」って言ったんだよな。
僕はカラカラの喉を湿らすように唾を飲み込んだ。
「実は……下心が……ある」
声が上ずってしまったが、しょうがない。
詩緒姉が僕の変な喋り方に気づいて振り向いた。
振り向いた先に居る亨はガチガチに緊張して真っ赤な顔をしている。
「な、何?」
つられて私も緊張してしまった。
亨は意を決したように大きく息を吸った後、とんでもない事を口にした。
「これからもセックスさせて!!」
「亨の馬鹿あ!!」
バコンッ
間髪入れずに持っていたフライパンで顔面を殴ってしまったわよ……当たり前だと思う。
「いったぁ〜…」
亨は殴られた顔を両手で覆って床にしゃがみ込む。
「昨日言ったでしょ?!オナペットなんか冗談じゃないわ!!」
「いや、違う。そうじゃなくて……」
「何が違うのよ?!」
やっぱり、亨にとって私はそういう対象にならないのよ……あ……ヤバい……泣けてきた。
僕は殴られた顔を必死に擦り、痛みを軽減させる。
マジで違うんだ……言いたかった事はそんな事じゃ無かったのに……。
何とか痛みが引いて目を開けると床が濡れているのに気づく。
何か溢したんだろうか、と顔をあげて見たら……詩緒姉の目から涙がボロボロ溢れていた。
「詩緒姉?!」
驚いて立ち上がるも、どうして良いか分からずにオタオタする僕。
昨夜、散々抱いたクセに何だか怖くて詩緒姉に触れなかった。