お仕置きの時間 2-1
この館はまったく常識外れでイカれて、全てが狂っているのだ。
いつ起きても昼夜はあいまいで、砂糖菓子の時計は長針と短針がダンスして時間もわからない。季節すらあいまいで、ただひたすら真っ白な濃霧に囲まれているだけだ。
そして、ピアニストが本当はどんな姿かも、グレーテルは知らない。
十代半ばの細身な美少年は、ヘンゼルの身体だから。
知っているのは、美味しいお菓子と楽しい遊びをこよなくする、徹底的な享楽主義者で、一見は脳天気でアホなただの変態。本性はサド魂が服を来た、超ド変態という事。
「変……態っ!」
触手に拘束されながら、荒い息の合間に罵る。
「そう?。ま、グレーテルと同じならいいや」
「私は違うもん!」
真っ赤になって否定すると、ケラケラ笑われた。
目の前に愛液でぬらぬら光る指が突き出される。
ゆっくり動く指の合間で、それが糸をひくさまを見せ付けられ、ゾクリと背筋が震えた。
「恥ずかしい事さられると興奮しちゃうくせに」
「違……っ」
自分がそんな性癖だなんて絶対認めたくない。けど、身体は正直に反応してしまう。
言葉で嬲られるたび、身体の奥がたえがたくうずき、熱い蜜がとろけだしてくる。
グレーテルを気に入り、ヘンゼルを人質に乗っ取ったピアニストは、彼女自身より彼女を熟知しているようだ。
細いすじのような性器を、触れるか触れないかの弱さで、つぅっとなぞられた。
「ヒクヒク物欲しそうにしてるよ。そりゃ満足できっこないよね?触手でもなんでも咥えこむのが大好きなんだし」
「あ、あっ……や……」
従いたくなくとも、悪魔は大好きな兄の顔で、グレーテルを一番効果的なやり方で責め立てる。
「でも、今日はまだいれてあげない。お仕置きだからね」
ピアニストが、部屋の隅の楽器へ視線を向けると、蓋が閉まったままのピアノから、リズミカルな曲が流れ出した。
その曲にあわせるように、触手たちがいっせいにはげしく動き出した。
今度は足の間にも侵入したが、体内までは入ろうとせず、柔らかいブラシ状になった先端で、ひたすら表面を這い回る。
「あっ!ああっ!!ひ、ぁぁ!!」
乳首と同じように、敏感な蕾も包み込まれ、拘束された腰が、悶えることもできずに痙攣する。
ゆるやかに溜まっていく快楽が爆発する気配を察するたび、触手たちは一度離れ、絶頂が遠のいたところでまたいたぶり始める。拷問のような生殺しの苦しさだ。
「は、はぁっ!あ、ああ……あ……」
涙がボロボロ零れる。
苦しくてたまらないのに、身体の中は責め苦を喜び、きゅんきゅん収縮を繰り返す。
「そのいやらしい顔、すごく可愛いよ」
涙でベトベトの顔を愛しそうに覗き込まれ、唇を同じもので塞がれた。唇をはむはむ噛まれ、差し込まれた舌が、味わうように口腔をまさぐっていく。
「ん、んふ……」
甘い口づけの合間にも、触手たちの責めは続く。
気も狂わんばかりの快楽に、身動きできないままグレーテルはひたすら涙を流す。
「あ、あふっ……も、もぅ、や……ご……ごめんなさ……ぁいい!!」
口づけの合間に、必死で泣き叫んだ。
「うん、イイコだね」
ニコリとピアニストが頷き、同時に触手たちが敏感な三点を強く吸い上げる。
「ふぁぁあーーーーっ!!!!」
秘裂から熱い潮が噴出し、小さな乳首からも注ぎ込まれていた触手粘液が盛大に吹き上がる。
ピアノの音色がパタリと止まり、ピアニストは触手を下がらせ、グレーテルを横抱きに抱える。彼女の 全身は体液でドロドロに汚れているのを、気にするようでもない。
どうしてと思うほど、ピアニストはグレーテルをとても溺愛している。
常にグレーテルを楽しませようとし、大好きな美味しいお菓子を与え、目覚めると枕元にはいつも上等のドレスが用意されている。
さっきの像だって、常人と感覚が斜め45度ずれているだけで、本当に好意だったのだろう。
――だけど……。
抱きかかえられたまま、気力を振り絞って金の鍵を取ろうと手を伸ばす。
「おっと」
指先が触れるところまで行ったのに、両手が塞がっているピアニストは、魔力で鍵を宙に浮かせてしまった。
「はぁ……はぁっ……いい加減、お兄ちゃんを返してよ!」
ピアニストはまるで動じず、無邪気にさえ見える笑顔で首を振る。
「心から愛してるよ、グレーテル。けど、それだけはダメ」
「ど……して……」
「なに?」
「どうして、私たちなのよ!?」
それは、災厄は他人に向けてくれという身勝手な意味の叫びだった。
けれど、理不尽極まる悪魔に怒りがおさまらない。
「そうだね……どうして、僕たちなんだろう……」
ところが、また飄々と返すとばかり思っていた悪魔が、ガラにもなく悲しげに眉を寄せた。
やけに嫌な空気が広がる。
なぜかはわからないけど、触れてはいけない所に触れてしまったしい。
兄の顔だからだろうか、悲しげなピアニストの表情が、グレーテルの心臓をひどく刺し傷めた。
「――それはそうと」
気を取り直したように、ピアニストがまた笑みを繕う。
「今度はちゃんと謝れたご褒美をあげないとね」