愛しき圭都-3
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。大学の友だちとばったり会って、立ち話してた」
「いや、僕もさっき来たばかりだよ。タイミングばっちり」
圭都はワンピのお尻のところをさっと伸ばしてから膝を揃えて、僕の前に座った。
「圭ちゃん、大学の友だちって女の子?」
「そうだよ」
「小さな声で訊くけど、友だちは気づいているの?」
「やだあ…」
圭都は少し拗ねたような表情になった。
「ごめん」
「謝らなくてもぅ。性別の秘密、誰も知らないの」
「そうか…。そりゃそうだよね。圭ちゃんは奇跡だもんな」
「叔父さん、大げさだよ」
圭都は頬を染めた。口元が緩み、白い歯がキラッとこぼれた。
コーヒーとミルクティーを注文してから、僕は本題に入る。
「今日呼び出したのは、圭ちゃんのこれからのことが心配だったからさ。僕が立ち入っていいのか。それはわからないけど…質問とかしていい?」
「いいよ。何でも訊いて。だって男どうしだもん」
「圭ちゃん…」
「あっ、いちばん最後の言葉はジョークだよ」
圭都は小さな舌をちょろっと出してすぐに引っ込めた。
「真面目な話、圭ちゃんは大学を卒業してからも女性として生きていくんだろう?」
「もちろん。ずっと女の子だよ」
「そうか…。そうなると、アレは厄介な存在だなあ」
「アレ?」
「圭ちゃんに付いているアレだよ」
「ああ、そのことね」
コーヒーとミルクティーが運ばれてきた。
こんなに可愛い女の子に男性の性器が付いているなんて、神様の失策ではないだろうか。
圭都はミルクティーをひと口飲んでから、僕の方に顔を近づけてきた。
「わたし、社会人になってお金貯まったら、性的適合手術を受けようと思っているの」
小さな声で囁くように語りかけられた僕は、圭都の瞳を見つめた。
「圭ちゃん、僕は何もしてやれないかもしれないが、僕は…」
「叔父さん…」
「僕は圭ちゃんが大好きだ」
圭都は頬をさらに赤くした。
「わたしも、基郎さん好き」
目を伏せながら言った。圭都の言葉は心地よく響いて、僕はもっともっと彼女を抱きしめたくなった。
吉祥寺の街に降り注いでいた日差しがなくなり、どんよりとした空から今にも雨粒が落ちてきそうな天気になっていた。
圭都と二人、寄り添って歩いた。他人から見たら親子に見えるかもしれない。赤いサンダル(ウエッジソールと呼ぶらしい)を履いている圭都の素足にときめく。シャンプーの香りが少し残ったセミロングの髪にときめく。僕は圭都のすべてが大好きだ。