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【サイコ その他小説】

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血で汚れた手を拭い、戸棚からかなり大きめのカンバスを取り出した。カンバスは血で汚れないように丁寧に、死体と対角線上の位置に持ってきた。机を脇に退けて作ったスペースにそれを寝かせる。

下準備は済み、作業の始めは頭から。彼女は脳味噌を少々千切り(脳味噌は千切るというのかは知らないが)カンバスの上の方に置く。その上に先ほど切り取った皮膚を乗せ、ボンドで貼り付ける。その皮膚は顔の部分を切り取ってきたもので、ちょうど額の部分に脳味噌が配置されている。薄い皮膚の上からでもくっきりと脳味噌のピンクと柔らかい感触が視認できる。

ぽっかり開いた眼窩部分には、裏側から目玉を釘で打ち付け固定する。繋がる喉の無い口の部分には、切り取った唇を貼り付ける。おっとおっと、鼻も忘れてはいけない。顔面を両断する前に唇と鼻はあらかじめ切り離しておいてあるのだ。唇と鼻をくっつけた後、もはや機能することの無い神経の塊と感覚器官を見つめ彼女は何か違和感を覚える。何だろう?

「ああ、耳を忘れていますね。このままでは耳なし芳一になってしまいますね。ふふ、私ったら」

彼女は一人でクスクス笑い、もはや内臓も脳味噌も床に落ちて空っぽになった死体から、耳を切り取ろうと思ったが、ナイフが無くなっている。しかし彼女は人間の耳なんて、強く引っ張れば引き千切れることはとうのとっくに知っていた。だから耳たぶを強く持ち、思いっきり引っ張る。ぷちぷちという、布を引き裂く時のような感触。半分くらい引きちぎったところで、ぶちぃ、と割かし大きな音がして一気に耳は取れた。既に冷たくなったそれは、素手でやった割にはなかなか上手に切れていたため、彼女は満足げだ。

そして顔の形をした人皮の横部分に耳を貼り付け、彼女は少し離れてカンバスを見つめた。目の前の顔は、脳味噌も耳も目も口も鼻もある。ただ肉と骨が無いだけで、ここまで人の表情は変わる。それを十分味わった彼女は、うんうんうんうんと、四度頷き、次の作業に移る。

さてさてお次は胴体の番だ。彼女は胴体部分で必要なものを取り出すべく、死体に近づく。固まり始めた血だまりの中にゴミのように山になった内臓の中から彼女はいるもの選び、丁寧に血を拭った後で、カンバスの近くまでそれを運んだ。

彼女はまず、胴体部分に、体中の筋肉を集め(ナイフが無いため素手で)、その上に皮膚を乗せた。ただし皮膚は一枚ではなく何枚も重ね、強度と厚みを持たせる作りとなった。出るところは出ているし、上半身までのマネキンと同じような状態である。

唐突だが、彼女には前々からやりたかったことがあった。彼女は頭皮の部分を取り上げ、それについてある髪の毛を切り始めた。大体長さは5センチ位。それをどうするかというと、頭皮の裏側、頭蓋骨側にボンドをつけ、なにを思ったのか彼女はそれを心臓に貼り付けた。

『毛の生えた心臓』という言葉が日本にはあるが彼女はそれがどんなものか一度見てみたかったのだ。もちろん実際に心臓に毛を生やした人間がいるわけでなく、だったら自分で作るわけしかなく、彼女はぺたぺたぺたと心臓に頭皮を貼り付ける。

出来上がったのは文字通りの『毛の生えた心臓』。心臓から毛が生えている、としか表現の仕様が無い一品だ。敢えて言うならば近所の公園の砂場にゴルフボールを置き、バンカーの練習をするおっさんくらいの滑稽さくらいは感じられるだろうか。しかし、

「思ったより、面白いものではありませんね」

と、彼女は辛口の評価を下す。言いながらも、彼女は心臓を加工し続けた。右心室、右心房、左心室、左心房。四つある血の出入り口の内、三つを彼女は塞いだ。

次に持ち出したのは肺。次に脾臓。さらに肝臓、腎臓。肝臓と腎臓は心臓と同じように二つある穴の内、一つを閉じる。ちなみにこの五つ、五臓六腑の五臓である。

彼女はその臓器達に30センチくらいにカットした小腸を、それぞれの穴に縫いつけた。

そして作品の最終段階。先ほど作り上げた胴体部分に、彼女はノミを付きたて、穴を開ける。そこの穴に五本に分割された小腸を突っ込み、固定させた。

「さあ出来た」

彼女はうれしそうに笑い、カンバスを立ててみる。

皮だけになった顔。

薄っぺらい皮膚の周りには、妙に立体感のある顔のパーツたちがわざとらしく飛び出ている。

手足の無い、皮と筋肉だけで作られた胴体。

胴体には穴があり、言葉どおり、内臓が飛び出ていた。肉の管によって繋がったそれらは、ぶらりぶらりと揺れており、そのうちの一つの心臓は黒々として毛がびっしりと生えている。

「うんうんうんうん」

彼女は四回、声に出してうなずき、

「まあまあ、上出来ですね」

と言った。指元は泣きぼくろを触っている。


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